アリスのフルディスクリート・シャント・レギュレーター
AL431

(できるだけ質問にこたえてみるコーナー)


アリス  「AL431にまつわる各方面からの質問に、ほんの少しだけマジメにおこたえしてゆくコーナーです。」

みみずく 「そう、ほんの少しだけマジメに。」

アリス  「さっそく、ご質問です。」

  質問:『AL431シャントたんが300Vというのはホントゥでつか、ハァハァ…』

みみずく 「ホントにそんな質問なのか?」

アリス  「すみません。ちょっと創りました。」

  本当の質問:『貴工房のAL431が高耐圧と言うことで、真空管用の半導体安定化リニア電源に使用できないかと興味を抱いております。
          よろしければ実例などを掲載していただけないかとご相談申し上げます。』

アリス  「わっかりましたー。」

みみずく 「せっかく高耐圧のポテンシャルがあるんだから実験してみるのは有意義だな。」

アリス  「と、いうわけでやってみましょー。
      高耐圧300Vのトランジスター、2SA1721と2SC4497を買ってきました。」

みみずく 「さて、実験用の回路設計を始めよう。」

アリス  「できるだけカンタンに実験がしたいです。」

みみずく 「うむ。では家庭用のAC100Vをダイレクトに倍電圧整流してDC280Vをつくるのがいいだろう。
      パワー・トランス・レス、つまりPTL 。」

アリス  「最後のがイミ不明ですが、そんなことして大丈夫なんですか?直接コンセントに繋ぐんですよね?」

みみずく 「もちろん大丈夫だよ。それに、電源トランスがあるから安全ってわけでもない。」

アリス  「倍電圧整流ってことは、以前につくったUBR−1を使えますか?」

みみずく 「そうだね、ちょうど使えるよ。回路はこのようにしよう。
      AC100VをUBR−1で倍電圧両波整流しておよそDC280Vをつくり、
      そこからAL431で230Vに安定化させることを目論む。」

アリス  「トランス無しは手軽で助かります。
      UBR−1の入力の200Ωはどうして付いてるの?みみずく先生?」

みみずく 「万が一の保険さ。突入電流でUBR−1の整流ダイオードが破壊されることを防ぐのが目的。
      整流ダイオードがショートモードで破壊すると大変まずいことになる。」

アリス  「あたし、実はこんな高電圧の実験をするのは初めてなんです。
      本当のことを言うと緊張してます。」

みみずく 「他の電化製品やアースに電気的に接触しないようにだけは注意しておくれ。
      絶縁性のあるボードかシートの上で実験するとより安全だね。
      この回路はシンプルだし、そのくらいの手を打っておけば、そう心配することは無いよ。」

アリス  「わかりました。運を天に任せます。(?)
      UBR−1の出力後の47kΩと4.7μFはリプルの平滑をしているんですよね?」

みみずく 「この定数だとそれなりに強力なCRフィルターとして働いてリプルを除去してくれる。
      AL431(+)の基準電圧(注:Ref-G間の電圧)が2.495Vに調整されているとすると、計算上この回路の出力電圧は229.3Vになる。
      また、AL431(+)の内部を流れるシャント電流は0.6mA程度になる。」

アリス  「けっこう少ない電流なんですね。」

みみずく 「出力トランジスターにも使っている2SC4497の最大コレクター損失は200mW。
      安全を見越して150mWくらいで使おうと考えた。
      230Vの電位差でAL431(+)が150mWの発熱をしているとすると、流れているシャント電流は、
      0.15(W)÷230(V)=0.652mA と逆算できる。
      そんなわけでシャント電流が0.6mA前後になるように定数を決定した。
      今回はAL431が高電圧で作動することが確認できればよいのでこれでOKと言うわけ。」

アリス  「もっと大きな電流出力が欲しい場合にはminiRegやminiReg2の手法を使って
      AL431でシリーズレギュレーターを作ればよいと言うことですね。」

みみずく 「出力トランジスターに2SC3672を使えばコレクター損失1000mWまでいけるから、もう少しシャント電流を増やすことができる。
      しかし、シャント電流は基本的に捨てられるエネルギーなので特に目的が無い限り、無理に増やす必要は無い。
      大電流が欲しい場合にはアリスが作ったminiRegやminiReg2での手法は有効だと思うよ。」

アリス  「AL431(+)のパーツについてはどうですか?高耐圧化するために必要なものはありますか?」

みみずく 「トランジスターは高耐圧品だからよいとして、コンデンサーとダイオードは300V以上の耐圧の物が必要。
      抵抗は通常品は300V耐圧のものが多いのでキット付属品をそのまま使えば大丈夫。
      半固定抵抗にも電圧はいくらもかからないからこれもキット付属品でOK。
      ところで、AL431のダイオードは回路保護用のものなので、
      逆電圧がかからないことが確実なら実装しなくても機能上問題は無い。これは余談。」

アリス  「22pFで300V以上の耐圧のコンデンサーがなかなか見つからないんですけど、どうしたらいいですか?」

みみずく 「それならマイカコンデンサーがいいだろうね。500V耐圧品を持っているから分けてあげよう。
      少々高価だが、マイカコンデンサーは高耐圧だし特性も優れている。」

アリス  「わぁ、ありがとうございます♪マイカコンデンサー使うのは初めてです♪」

みみずく 「準備としてはこんなところかな。」

アリス  「それでは、具体的に作業に入ります。
      AL431(+)を高耐圧部品で組み立て、基準電圧の調整を済ませておきます。
      今回はNPNトランジスターに2SC4497、PNPトランジスターに2SA1721、
      コンデンサーに22pF500Vマイカコンデンサーを使用しました。
      他の部品は通常品です。ダイオードの実装はしていません。
      絶縁のため、部品どうし1o程度は離すようにしてください。
 

アリス  「次にUBR−1を用意して、倍電圧両波整流モードで組み立てます。
      コンデンサーには耐圧140V以上、整流ダイオードには耐圧280V以上のものが必要です。
      今回はコンデンサーに200V470μF、ダイオードに1000V1Aのものを使用しました。」

アリス  「UBR−1の入力に200Ωと電源ケーブルを取り付けます。」

アリス  「ブレッドボードに抵抗を載せて配線をします。
      コンデンサーも乗せました。巨大なフィルムコンデンサーです。」
 

アリス  「AL431(+)をブレッドボードに差し込んで、UBR−1とも接続を完了し、後は電源を入れるばかり!
      ドキドキ…。とても緊張します。爆発したりしないわよね?」

アリス  「とても緊張しましたが、テストは無事に終了。測定値はこのようになりました。」

  ・AC100Vの電圧 … 実測値AC102.8V
  ・UBR−1出力の電圧 … 実測値DC280.2V
  ・AL431(+)の無調整時の出力電圧 … 実測値DC221.3V

アリス  「通電状態で(感電の恐怖に冷や汗を流しながら)AL431(+)を微調整した結果、
      出力を当初の計画通りに230Vとすることができました。」

みみずく 「おめでとうアリス。実験は成功だな。」

アリス  「ありがとうございます。でも、もうぐったりです。
      高電圧にはものすごいプレッシャーがあります。」

みみずく 「その気持ちを忘れないことこそが大事だぞ。」

アリス  「しばらくは、もういいかなって。ふう〜」

みみずく 「ははは、お疲れさん。
      じゃあ、具体的な電源回路の一例を私のほうから挙げておこう。」

アリス  「あ、それにつきましては、みみずく先生にひとつご相談が。」

みみずく 「うん?なんだいアリス?」

アリス  「高性能の電源キットとして作ったV.Reg(+)&(-)なんですけど、
      トライパスのDCアンプスペシャルを作る研究をしていたときに全部使ってしまいました。」

みみずく 「ふむふむ。」

アリス  「それで、もう一度作るのもいいけど、
      せっかくならAL431に対応した、もっといいものを作りたいなあって。高耐圧はもちろんですし。
      というわけで一緒に考えてくれたら、例によって、あたしとっても感謝します。」

みみずく 「なるほどね。そういうことなら構わないよ。
      さっそく検討してみようじゃないか。」

アリス  「では、この続きはV.Reg2のコーナーに持ち越しと言うことで、
      ひとつよろしくお願いいたしますです。」

V.Reg2のコーナーは工事中です。

【 追 記 】
アリス  「ところで、岩手県のSさんより、AL431の高耐圧仕様、AL431HV(+)を
      真空管アンプの電源に使用した旨のレポートをいただきました。」

みみずく 「回路図や具体的な部品、設計の根拠などが記載されているのでとても参考になるなあ。」

アリス  「しかも、名機『ロフチンホワイトアンプ』です。
      いただいたレポートはこちらに掲載させていただきました。」


アリス  「次のご質問を頂きました。」

  質問:『AL431シャントたんに、すんごいのを流したとこ見てみたいでつ。ハァハァ…』

みみずく 「ホントにそんな質問なのか?」

アリス  「すみません。かなり創りました。」

  本当の質問:『出力トランジスタを高出力のものに交換し17.5Vの入力から、15V1.5Aの出力を得ることは可能でしょうか。』

アリス  「どうなんでしょう?みみずく先生?」

みみずく 「シャント方式の電源で15V1.5Aとは。確かにすんごいな。」

アリス  「かなりの発熱がありそうですよね。大丈夫でしょうか?」

みみずく 「シャントレギュレーターとしては大電流だが、不可能ではない。回路図を見てみよう。」

 

アリス  「電源としてはシンプルな回路ですね。」

みみずく 「そうだね、シンプルな回路だ。
      さて、考え方の順序としてはシャント用負荷抵抗の値から決めよう。」

アリス  「入力が17.5V、出力が15Vということはシャント用負荷抵抗での電圧降下は2.5Vです。
      仮に2.5Vの電位差で1.5Aが流れているとすると、

      2.5(V)÷1.5(A)=1.67(Ω)

      なので、これ以下の抵抗値が必要です。」

みみずく 「ここは1.5Ωでもいいんだけど余裕を持って1.2Ωにしておこう。」

アリス  「余裕ですか?」

みみずく 「そう、余裕。ここを1.5Ωにすると流れる電流は約1.67Aになる。
      出力に1.5Aが流れたとすると、AL431を流れる電流は差し引き約0.17Aになる。
      今回は出力トランジスターには大電流用のものを使うので、
      この領域では直流電流増幅率が低下してしまいAL431の能力を生かしきれない。」

アリス  「ここを1.2Ωにすると電流は約2.08A流れるから、1.5Aを外部に供給しているときには、
      AL431には差し引き0.58A流れますもんね。
      これで、性能の低下を抑えようというわけですね?」

みみずく 「そういうこと。それと、出力トランジスターにはダーリントン・トランジスターを使う。」

アリス  「ダーリントンですか?」

みみずく 「AL431の内部はすでに2段ダーリントンになっているんだけど、
      それでも、これだけの大電流を流すとAL431内部の制御回路にも電流が流れすぎて動作がおかしくなる。
      それを防ぐ為には出力トランジスターをさらに一体型のダーリントン・トランジスターにするとよい。」

アリス  「そういったことにも気を遣わなければならないんですね。
      お勉強になります。」

みみずく 「あとは熱の問題があるよ。」

アリス  「あ、そうでした。
      回路図の定数では外部機器への出力が15V1.5Aのときに
      AL431には15V0.58Aの電流が流れますから、その発熱量は、

      15(V)× 0.58(A)=8.7(W)(最小値)

      で、同じく出力が0AのときにはAL431には15V2.08Aが流れるから、

      15(V)× 2.08(A)=31.2(W)(最大値)

      ということになります。…31.2Wって発熱多すぎませんか?!」

みみずく 「相当多いね。ちなみにTO−220パッケージのダーリントン・トランジスターの場合、
      コレクター損失の絶対定格は20〜30W。これを絶対に超えてはならない。」

アリス  「ってことは31.2Wはムリってことですよね…。」

みみずく 「消費電流が0Aになるような回路には使えないってだけさ。
      その場合にはシャント用負荷抵抗を1.3Ωに換えればいい。」

アリス  「それにしても、かなり大きな放熱フィンが必要ですね。」

みみずく 「シャント方式の電源はメリットの大きな方法ではあるけど、
      基本的には電力を熱として捨てている。発熱量が多いのは当然だな。
      大電流ではminiReg2のようなシリーズ方式の電源の方がムダも少なく融通が利くよ。」

アリス  「ところで、330μFのケミコンと0.1Ωが直列になってますけど?」

みみずく 「あぁ、これかい?まぁ、無くてもいいんだけどね。説明のために付けてみた。」

アリス  「?」

みみずく 「シリーズ型の電源の習慣で、シャント型の電源の出力にもデカップリング用のコンデンサーをつけたくなることがある。」

アリス  「はい。なんだか性能が上がりそうな気がします。ノイズも少なくなりそうですし。」

みみずく 「ところが、そうはいかない。」

アリス  「えっ!それは知りませんでした。」

みみずく 「シリーズ型の電源で出力にデカップリング・コンデンサーを使うのは、電流のデカップリング経路を確保するのが目的だ。
      しかし、シャント型のこの回路ではAL431自体がデカップリング経路を構成している。
      だから、AL431の有効帯域ではデカップリング・コンデンサーは本質的に不要。
      いや、むしろ動作の邪魔。」

アリス  「邪魔なんですか?」

みみずく 「電流の流路が並列に2つ以上あるときに、電流変動の位相が相互にずれると…?」

アリス  「あっ!並列共振!ケミコンボードの勉強のときにしました!」

みみずく 「そう、それに類似の問題が起きて発振に至ることもある。」

アリス  「そういえば、シャントレギュレーターTL431の使い方で、
      データシートにはコンデンサーを並列に使うことに制限があったように思いますけど、そういうわけだったんですね。」

みみずく 「そういうこと、これはシャントレギュレーターの欠点の問題ではなく、回路の動作原理の問題なんだ。」

アリス  「それを防ぐ為に0.1Ωを直列にしているんですね?」

みみずく 「330μFの場合、ダンピング抵抗に0.1Ωもあれば発振は防げるしね。
      というわけで、どうしてもという理由が無ければ使う必要は無い。
      補足すると、AL431のゲインが落ちる高周波ではデカップリングが有効なので、ごく小容量のコンデンサーは効果的。
      それと、セオリーどおりデバイスの直近にはパスコンが必要であることには変わりはない。」

アリス  「むむぅ〜…。シンプルな回路でも勉強することはたくさんあるものね…。これはV.Reg2の製作に活かさなくっちゃ♪」


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