アリスのケミコン・ボードの巻き その3

 

みみずく 「この話題も3回目か。ちょっと引っ張りすぎたかな?」

アリス  「休憩もしたし、そろそろ決着を付けたいな、と思いまーす。」

みみずく 「ちなみに、さっき(その2で)アリスが説明をしていたのはコンデンサーの内部で起こっているL,C,Rの直列共振についてのことなんだ。
      直列共振は共振周波数でLとCが互いの電圧発生を打ち消しあい、見かけ上インピーダンスが極小となる。
      インピーダンスが小さくなるということは、結果として共振周波数では電流がたくさん流れることを意味している。」

ありす  「そして、自己共振周波数より高い周波数ではキャパシタンスCの性質は徐々に失われていって、インダクタンスLの
      性質が強まってくるんですよね?」

みみずく 「そのとおりだね。」

アリス  「じゃあ、静電容量の異なる470μFと4700μFのコンデンサーを並列に接続するのは、4700μFのインダクタンスが強まってくる
      高い周波数で、4700μFのインダクタンスより470μFのキャパシタンスを活かそうとしているからなの?」

みみずく 「まあ、そう考えて差し支えない。」

アリス  「でも、そんなに都合よくいくかしら?」

みみずく 「何か調べてきたようだね、アリス。聞かせておくれ。」

アリス  「はい。えーっと…、まずCap1、Cap2の二つのコンデンサーの並列接続を考えます。
      さらにそれぞれ、Cap1について、インダクタンスL1、キャパシタンスC1、レジスタンスR1、自己共振周波数f1、とします。
      同様に、Cap2について、L2、C2、R2、f2…として説明を続けます。」

みみずく 「OKだよ。」

アリス  「グラフで示すと次のとおりです。いま、f1とf2の間にあるfpという周波数について考えます。
      fpはL1とC2のインピーダンスが一致している周波数です。」

みみずく 「ふむ。」

アリス  「ここで、並列に接続されたCap1、Cap2に周波数fpの交流電圧をかけてみます。
      fpにおいては、Cap1はインダクタンスL1が支配的であり、Cap2はキャパシタンスC2が支配的であると思います。
      なので、ハナシを簡単にするため、L1とC2の関係に絞って述べることにします。…こういうの、大丈夫かな?みみずく先生?」

みみずく 「概略をつかむためには、ときに大胆なアプローチも有効だよ、アリス。それでいってみよう。」

アリス  「周波数fpにおいてL1とC2は並列であるから等しい交流電圧がかかります。
      このときL1とC2のインピーダンスは等しいので流れる交流電流も等しくなります。
      但し、キャパシタンスとインダクタンスは交流電圧に対して発生する交流電流の向きが互いに反対になる性質がありますので、
      実際の交流電流はL1とC2の間を行ったり来たりするだけになり、L1とC2の全体としては電流が外部から流入することも
      外部へ流出することもなくなります。
      電圧がかかっているのに電流が流れなくなるわけですから、L1、C2の並列合成インピーダンスは大変に大きいと言えます。
      結局、Cap1とCap2の並列接続はそれぞれの自己共振周波数f1、f2の間のfpにおいて大きなインピーダンスを示すこととなり、
      このときにはコンデンサーとしての働きは相当失われることが考えられます。…と、こんなふうに考えてみました。」

みみずく 「なかなかいいじゃないか、アリス。君の考えていることがよくわかるよ。」

アリス  「ただ、細かいところで無視していることもたくさんあります。」

みみずく 「全体像を自分のイマジネーションで把握しようとすることは、とても大切だ。細かいところや実験的・理論的に不正確なところは、
      後からどんどん修正すればいい。私は自分自身のイマジネーションの成長を抜きにした理解などありえないと思っている。」

アリス  「理解とは正確なイマジネーションを持つことだってこと?みみずく先生?」

みみずく 「そう思うね。ところで、コンデンサーの並列接続の件についてもう一度考えてみようか。
      いま、アリスが説明をしたのは、並列接続されたコンデンサー内部のそれぞれのL,C,Rが並列共振を起こすことについてだね。
      並列共振は共振周波数でLとCが互いの電流変動を打ち消しあい、見かけ上インピーダンスが極大となる。
      インピーダンスが大きくなるということは、結果として共振周波数では電流があんまり流れないことを意味している。」

アリス  「ということは、いろんなコンデンサーを並列接続するとインピーダンスの周波数特性はピーク(極大点)やディップ(極小点)だらけに
      なっちゃうってことですよね?」

みみずく 「そういう事態もじゅうぶんに考えられる。
      ところでアリス、コンデンサーの中でも電解コンデンサーは鋭い共振を起こしづらいんだけど、その理由はわかるかな?」

アリス  「電解コンデンサーは構造上、ESR(等価直列抵抗)が高いものが多いらしくって、これがキモなんじゃないかなって思ってます。」

みみずく 「そうだね、正にそれが理由だ。いいところに注目したと思うよ。」

アリス  「ちょっと、横道にそれるんですけど、電解コンデンサーのESRが高い理由がはっきりとはわかりませんでした。」

みみずく 「電解コンデンサーの仕組みについては長くなりそうなので、コチラで別に話をすることにしよう。
      それで、ESRが高いとどうして共振を起こしづらいと思うんだい?」

アリス  「えっと…、ESRが共振電流の中に割り込むことで共振エネルギーの損失を生むからだと思います。」

みみずく 「おぉ、一言で答えたね。正解。
      もう少し具体的にいうと?」

アリス  「並列共振?でしたっけ。LとCをいったり来たりする振動電流のループの間に抵抗R(ESR)が割り込むことで熱損失が発生します。
      熱損失は流れる電流の二乗に比例して大きくなる性質があるので、共振電流の振幅はある一定以上に大きくなることができない。
      つまり、ESRが大きいほど共振は起こりづらい、と思います。」

みみずく 「すばらしい答えだ、アリス。そのとおりだ。」

アリス  「えへへ…、わたし頑張ったんです♪
      でも、電解コンデンサーは全く共振を起こさないの?みみずく先生?」

みみずく 「いや、やっぱり共振現象は避けられない。
      もちろん、ESRの低いセラミックコンデンサーやフィルムコンデンサーによる共振ほどの鋭いピークやディップではないけどね。
      それでも、ESRの高い電解コンデンサーといえど様々なコンデンサーを並列接続すると、インピーダンスの周波数特性はグネグネとうねって、
      インピーダンスが思い通りに下がらないことも多い。」

アリス  「コンデンサーはインピーダンスを下げるために使うことが多いのに…、複数のコンデンサーを使うことは難しいんですね。
      何かいい方法はないんですか?」

みみずく 「そうだね、同じコンデンサーを多数並列化することが考えられるよ。
      電解コンデンサーの同種多数並列であれば、あんまり問題を起こさずに、インピーダンスを下げることが可能だと思うな。
      ただし、実験はしていない。」

アリス  「………うーん…」

みみずく 「どうしたんだい、アリス?」

アリス  「それ、試してみたいです。」

みみずく 「おぉ、いつもながら感心だね。実験の成果を期待しているぞ。」

アリス  「実験するうえで、他に何かアイディアはありませんか?みみずく先生?」

みみずく 「そうだなぁ…。電解コンデンサーはぐるぐる巻いてあるから比較的大きいインダクタンスを持っているって話したよね?」

アリス  「はい、ききました。」

みみずく 「インダクタンス成分はコンデンサーの高周波インピーダンスを上昇させる。
      だから、インダクタンスをキャンセルすることが出来れば高域でのインピーダンスを下げることが出来るかもしれない。
      もちろん、まだ実験はしていない。」

アリス  「わぁ、おもしろそぉ。で、どうやるんですか?」

みみずく 「基板上に複数の電解コンデンサーを配置するとき、互い違いの向きに配置するのさ。
      そうすると、それぞれのコンデンサーに流れる電流が描く軌跡が、互いに逆向きとなる。
      このとき発生する磁場は、ある程度打ち消しあうことが予想される。
      結果的に、電流のエネルギーが磁気エネルギーに変換される量が減るわけで、全体としてインダクタンスが下がることになる。」

アリス  「ふむふむ。ワクワクします。」

みみずく 「頑張ってチャレンジしてくれたまえ。」

アリス  「あ、そこでなんですけど、いま開発中の新製品の基盤をもうすぐ工場に発注するって、前に言ってたじゃないですか。
      この基板の製作もそれに混ぜてほしいな〜♪えへ♪」

みみずく 「よく覚えてたね。まあ、スペースに少し空きはあるから構わないけど。
      その代わり、私にも一枚よこすんだよ。」

アリス  「どうぞどうぞ♪」

みみずく 「あ、そうだ、基板のアートワークの締め切りは、明日の夜までね。」

アリス  「えっ!それはたいへんだわ!今すぐ帰ってはじめなくっちゃ!」

〜〜〜そして翌日〜〜〜

アリス  「こんばんは〜、アリスでーす。」

みみずく 「こんばんは、アリス。間に合ったね。もうすぐ基板データを送信するところだよ。」

アリス  「もー、ホントにギリギリですね。単純な基板のアートワークなのに、思ってたより大変でした。」

みみずく 「上手く出来たかい?」

アリス  「じゃーん、どうですか、これをみて下さい。」

みみずく 「おー、お見事。よく出来てるじゃないか。」

アリス  「えっへん、ちょっぴり自信作です。」

みみずく 「コンデンサーは36個も積むんだね。」

アリス  「そうです。やるんだったら、このくらいやらないと面白くありません。
      インダクタンス・キャンセル配置もちゃんと実装しました。」

みみずく 「両面基板で表を陰極、裏を陽極としてベタ配線にしたんだ。いい選択かもね。」

アリス  「基板の配線パターンによるインピーダンス上昇を出来るだけ抑えたいと思ったんです。」

みみずく 「じゃあ、早速発注するけど、基板の名称は?」

アリス  「名前は『アリスのケミコンボード』です♪」

みみずく 「簡単な型番もつけておいたほうがいいね。」

アリス  「えーっと、それじゃあ…。ケミコンボードで、36個だから…。CB−36で!」

みみずく 「OK。発注しよう。」

アリス  「早くできないかなあ。」

みみずく 「だいたい2週間ほどだね。」

 

≪その2へ  その4へ≫

トップページへ