アリスのオペアンプで定電圧レギュレーター
(三端子レギュレーター互換で?)



アリス  「みみずく先生〜♪」

みみずく 「やぁ、アリス。今日も機嫌がいいんだね。
      何かいいことでもあったのかい?」

アリス  「そうですか?いつもどおりですよー。あ、お茶の時間でしたか。」

みみずく 「アリスにも一杯入れてあげよう。」

アリス  「へぇー、初めての味です。美味しいですね。」

みみずく 「最近はハーブティーがお気に入りでね。」

アリス  「パッケージに “ For Women ” ってかいてありますよ?」

みみずく 「不思議と身体にあう。」

アリス  「まぁ、美味しいならそれでいいのでしょうけど。」

みみずく 「ところで、今日は?」

アリス  「そうなんです。みみずく先生にききたい事があるんです。」

みみずく 「どんなことだい?」

アリス  「オペアンプで遊びたいんです。」

みみずく 「前にも聞いたようなセリフだなぁ。」

アリス  「あれはプリアンプをつくったときです。
      あれからいろいろ調べるとオペアンプを使って普通のアンプ以外にも
      いろんなものをつくれることがわかりました。」

みみずく 「確かにオペアンプを制御素子に使えば様々な機能を実現することが出来る。
      オペアンプの応用範囲はきわめて広い。」

アリス  「あちこちをツマミ食いして調べたところ、オペアンプで電源をつくれるのだそうです。」

みみずく 「そうだね、出来るね。」

アリス  「ということでオペアンプを使った定電圧電源の製作に興味を持ちました。
      オペアンプの差し替えで音の変化も楽しめると思いますし〜♪」

みみずく 「オペアンプの差し替えで変化はあるだろうね。
      しかし、つくるのはそんなに難しくは無いけど?
      参考例はネット上にもたくさんあるんじゃないのかなあ?」

アリス  「そうなんですけど、三端子レギュレーターと互換の作例は見つけられなかったんです。」

みみずく 「三端子レギュレーター互換かぁ…」

アリス  「エフェクターやアンプなどの機材改造に使いたいので三端子レギュレーター互換でやりたいんです!
      以前につくったminiReg2と差し換えて音の違いも楽しみたいですし。」

みみずく 「また無茶な…。
      普通はオペアンプを使ったレギュレーターは正負両電源を用意して、
      それなりの大きさの基板につくるものなんだけどねぇ…」

アリス  「一緒に考えてくれたら、例によって、あたしとっても感謝します。」

みみずく 「まぁ、考えるだけ考えてみようか。
      アリスの勉強にはなるだろうしね。」

アリス  「そうこなくっちゃ!です♪」

みみずく 「アリスはどんなことを調べたんだい?」

アリス  「はい。基本的にこんな回路らしいです。
      出力電圧をNF1とNF2で分圧して、
      その電圧が基準電圧であるVrefと等しくなるように制御されるのだそうです。」

みみずく 「そうだね。動作原理はそういうことになる。」

アリス  「オペアンプの増幅率はとても大きいので非常に高性能な定電圧レギュレーターをつくれるようです。」

みみずく 「うーん、高性能って言ってもイロイロあるんだけどなー。」

アリス  「ちょっと大事なハナシっぽいですね。」

みみずく 「せっかくだから軽く説明しておこうか…。
      電源について考えるには次の三要素が主に重要なことになる。」

アリス  「電源三要素ですね。」

みみずく 「そう。すなわち 凾u、凾h、凾s。
      凾ヘデルタと読み、変化するパラメーターにつける枕文字みたいなものだ。」

アリス  「あぁ…、微分積分の香りがすると、頭痛が…」

みみずく 「大丈夫。数式まで持ち出す必要は無いよ。
      それぞれ凾uは電圧変化、凾hは電流変化、凾sは温度変化を表す。」

アリス  「それなら覚えられます。」

みみずく 「というわけで、定電圧電源の電源三要素を簡単に書くとこんなふうになる。」

      凾u 入力される電圧が変動した場合、それをどのくらい圧縮して出力できるか?(ラインレギュレーション)
      凾h 出力される電流が変動した場合、どのくらい出力電圧を一定に保てるか?(ロードレギュレーション)
      凾s 温度が変動した場合、どのくらい出力電圧を一定に保てるか?

アリス  「そんなに難しくはなさそうですね。」

みみずく 「実際には相当に奥が深いんだけどね。
      電源回路の設計は、電源の供給相手の事情を考慮しながら、
      この三要素をバランスよくまとめることが大事になる。」

アリス  「覚えておきます。」

みみずく 「ところで、アリスが指摘したとおり、
      オペアンプは出力とVrefとの誤差を極めて大きく増幅し、それで出力に補正をかけるので、
      オペアンプを使ったレギュレーターは凾uについては極端に能力を上げることが出来る。
      セッティングによってはオペアンプのオープンループゲイン近く、増幅力を目いっぱい使うので
      周波数特性などの特徴も良く出る。アラが出やすいともいえるな。
      品種によっては安定性を失って容易に発振するので対策も必要。」

アリス  「あのぉ〜、ちょっと凾uと凾hの違いがわかり辛いんですが…
      結局は出力電圧をどれだけ安定させるか、なんですよね?」

みみずく 「レギュレーターの出力電圧に注目すれば似たようにも思えるけど、
      凾uは入力方向からの影響で、凾hは出力方向からの影響。似て非なるものだよ。
      一般的には凾uの能力が注目されているようだね。リプル圧縮率とも呼ばれる。」

アリス  「それなら聞いた事があります。〜dB(デシベル)って言うんですよね?」

みみずく 「そうそう。
      整流平滑回路直後のリプル(電圧の脈動)をどのくらい圧縮できるか、という指標だね。
      リプル圧縮率60dBなら約1/1000に、80dBなら約1/10000に圧縮できる。
      ところで、下流の回路構成にもよるんだけど、
      凾uの能力をあんまり高めすぎても制御動作が敏感になりすぎてかえってマイナスの場合もある、
      ということも覚えておいて欲しい。」

アリス  「なんだか、あんまりいい話ではないようなカンジが…
      止めといた方がいいのでしょうか…?」

みみずく 「もちろん、そんなことはないよ。
      アタマの片隅にでも置いておいて欲しいマメ知識だと思っておくれ。
      なんにしてもいろいろと実行して体験してみることが有益だと思うよ。」

アリス  「わかりました。
      オペアンプを使ったレギュレーターは凾uの能力が高いとのことですが、
      どんなところで役に立つんでしょう?」

みみずく 「凾uの能力が高いということは、入力からのノイズをかなり除去できるということでもある。
      何しろオペアンプのオープンループゲインは平気で120dBとかあるからね。
      電源が汚染されやすいような環境下でクリーンな電源を供給したい場合には
      かなり威力を発揮するんじゃないかな?」

アリス  「いきなりヘビーな使われ方ですね。
      もっと繊細な用途かと思ってました。」

みみずく 「いや、あるイミ繊細でもあるぞ?
      例えばデジタル機器の内部はパルス信号のおかげで割と厳しい電源環境になってる場合があるけど、
      ノイズ除去の効果が大きいという点では、その内部のクロックジェネレーター(発振器)の電源なんかには適任だよ。
      これは余談だけど、クロックジェネレーターを構成するクォーツ・レゾネーター(水晶振動子)と
      その発振回路には電源ノイズの影響が大きい。実際に、高価なクォーツを使った安易な回路よりも、
      一個10円の汎用クォーツと丁寧な電源回路をつかった方が安価で良い結果になることも多い。
      もちろん、良いクォーツを使えば更に良いが。」

アリス  「クロックですね。クロックですか…
      うーん、わかりません…
      すみません。アナログだって良くわかってないので…」

みみずく 「他にも消費電流が少なくて雑音の影響が大きいものに適任かな?
      例えばマイクアンプとか、ギタープリアンプとか。」

アリス  「あ、やっと脳に血が回ってきました。
      それならわかります。」

みみずく 「ハナシがそれ過ぎたな。
      用途や状況によって電源に必要とされるベストは結構違うのである、ということを言いたかったんだ。
      論点を元に戻そう。」

アリス  「オペアンプで三端子レギュレーターの互換品をつくろうと思ったときに
      良くわからなかったのが、オペアンプの電源です。
      オペアンプには単独で正負両電源が必要ですよね?
      そこのところを、どうしたらいいのかと行き詰ってしまいまして…」

みみずく 「三端子レギュレーターと互換にしたいなら必然的に片電源になってしまうからねぇ。
      解決方法としては片電源用のオペアンプを使う方法と、
      工夫して正負両電源用の普通のオペアンプを片電源で使えるようにする方法がある。」

アリス  「両電源用のオペアンプを片電源で使えるんですか?」

みみずく 「使えるよ。」

アリス  「片電源用のオペアンプについては、実は探してみたんです。
      でも、品種がとても少ないし、魅力的なものが見つかりませんでした。
      それに、出来れば手持ちのオペアンプを使えるようにしたいです。」

みみずく 「片電源用と両電源用のオペアンプの大きな違いは電源にあるんじゃなくって
      入力の絶対定格にあると考えるとわかりやすいよ。」

アリス  「入力ですか?」

みみずく 「そう、入力。
      そもそも、オペアンプにはグランドが接続されないから、
      オペアンプからしてみたら自分の電源が片電源なのか両電源なのか区別のしようがない。」

アリス  「そういわれると、確かに。」

みみずく 「オペアンプへの入力信号は、電源電圧の上下間のある一定の範囲内でなければならない。
      例えば、電源が±15Vの場合、
      入力信号はその0.7V内側の±14.3Vの範囲内でなければならない、とかね。
      その範囲を超えると正常に動作しなかったり壊れたりする。」

アリス  「それはデータシートで読んだことがあります。」

みみずく 「そう。もちろんデータシートに書いてある。
      でも、オペアンプにはグランドが接続されていないんだから、
      これを、電源+30V、入力信号の絶対定格+0.7V〜+28.3Vとしても同じことだ。」

アリス  「つまり、電源電圧と入力電圧の関係で限界が決まっていて、
      片電源か両電源か、は関係ないってこと?」

みみずく 「まぁ、乱暴に言ってしまえばそうなる。」

アリス  「じゃあ、片電源用のオペアンプっていうのは何なの?」

みみずく 「入力電圧の下限=負電源電圧、となっているオペアンプのことだよ。」

アリス  「ふーん、それだけの違いなんですかー。
      なんだか簡単にできそうな気がしてきました。」

みみずく 「簡単といえば簡単なんだが、注意点がある。」

アリス  「やっぱり。」

みみずく 「問題は電源のON、OFFのとき。
      正負両電源のオペアンプを片電源で使うと、このとき定格を超えやすい。
      例えば、電源投入時に入力がグランドに張り付いたまま電源電圧だけが上昇すると
      結果的に入力電圧が下限の定格を超えてしまうことがある。」

アリス  「かなり致命的な問題だと思いますが…
      解決策はあるんですか?」

みみずく 「いろいろ方法はあるよ。
      仕様にあわせて適切なものを考えていこうじゃないか。」

アリス  「では、仕様としてはこんな感じですね。」

     ・オペアンプ搭載の定電圧レギュレーター
     ・三端子レギュレーターと互換形状
     ・オペアンプの発振対策
     ・正負両電源のオペアンプに対応
     ・出力電圧可変

みみずく 「いいんじゃないかな?」

アリス  「では、ひとつよろしくお願いしますです。」


 

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