アリスの可変定電圧・安定化電源基板(V.Reg)の巻き その1

 

アリス  「みみずく先生〜。」

みみずく 「おや、アリス。今日は早いんだね。」

アリス  「ちょっと、ご相談したいことがありまして。」

みみずく 「まあ、お茶でも飲みながら聴こうじゃないか。」

アリス  「このまえ作ったminiRegを改良したいんです。」

みみずく 「ふむふむ。」

アリス  「実はエフェクター用に作ったわたしのminiRegを、お友達のギタリストとベーシストに貸してあげたんです。」

みみずく 「君のお友達ってぇと、白いウサギと帽子屋かい?」

アリス  「いいえ、お友達の少なかったわたしにも、最近は別の世界に"普通の"お友達が増えたんですよー♪
      …って、冗談は置いといて、とても気に入ったから自分も作りたいって。」

みみずく 「良かったじゃないか。何か問題でも?」

アリス  「miniRegは三端子レギュレーターの代替として作ったので、単体では少し使いづらいじゃないですか。
      それで、CRフィルターと出力のデカップリング・コンデンサーも一体にして、電源として使いやすくしたいなって思って。
      二人とも電子工作は慣れてないから。」

みみずく 「ずいぶん友達想いじゃないか。感心、感心。」

アリス  「みんなを巻き込んだ方が楽しいんです。わたし、利己的なんですよ♪」

みみずく 「それで、相談というのは?」

アリス  「今度のは少し大きな基板を使えるので、せっかく作るんだし、前と同じのじゃなくってパワーアップしたいなぁ、って思うんです。
      それでアドバイスをいただきに参りました。」

みみずく 「なるほどね、音質重視の改良ということであればいくつかポイントがあるよ。」

アリス  「ぜひ、ご教授を。」

みみずく 「まあ、そんなに難しいことじゃない。
      TL431に供給する電力を定電流化することと、TL431のカソードとリファレンスに適切なバイパス・コンデンサーを入れることだよ。」

アリス  「定電流はわかるけど、バイパス・コンデンサーって何ですか?」

みみずく 「ひとつづつ説明しようか。アリスはFETって使ったことあるかい?」

アリス  「トランジスターの一種ですよね?小さなキットを組み立てたときに使ったことがあります。」

みみずく 「そう、電界効果型トランジスターのことだ。フィールド・エフェクト・トランジスターを略してFETとよんでいる。
      普段トランジスターとよんでいるものは接合型トランジスターのことで、バイポーラ・ジャンクション・トランジスター、BJTと略記する。」

アリス  「あらら、急に眠気が…。」

みみずく 「まぁ、細かい名称は覚えなくてもいいよ。
      ところで、この二つの半導体デバイスは動作原理がまるっきり違うんだけど、ここではFETの性質を利用することにする。
      この回路を見てごらん。」

アリス  「FETに抵抗がひとつ繋がってます。」

みみずく 「そうだね。これが今回使う定電流回路だよ。」

アリス  「ずいぶん簡単な回路なんですね。」

みみずく 「そう、シンプルだね。FETは基本的に定電流動作をしようとする性質がある。
      どのくらいの電流を流そうとするのかはG:ゲートとS:ソースの間の電圧に依存する。
      2sk30はとても有名で優秀なFETなんだけど、実験によると、330Ωをぶら下げることで2mA前後の定電流動作をすることがわかっている。
      Rを変更すると電流値はこのようになった。

      1.2kΩ:0.97mA  1kΩ:1.09mA  750Ω:1.3mA  470Ω:1.68mA  330Ω:1.96mA  220Ω:2.31mA

      この定電流動作は温度的には不安定なので電流を精密に決める用途には向かないが、
      細かな電流変動をほとんど起こさないという点で優れている。
      これは、つまりノイズを通しにくいということ。これでTL431を駆動してやる。」

アリス  「TL431にノイズの少ない電流を供給しようというの?」

みみずく 「そうすると、どうなると思う?」

アリス  「miniRegはTL431の電圧コントロール能力をトランジスターで増幅する構造になっているから、
      ノイズの少ない電流で駆動されたTL431の動作が増幅されて、出力も静かになる…のかしら?」

みみずく 「実際に、アンプの電源に使うと聴感上はそう聴こえるよ。
      好みの差はもちろんあるんだけど、静けさを感じさせるような音になる。」

アリス  「小さな音が聞こえるってコト?」

みみずく 「音の消え入り際がよく聞こえるようになる、とか、水面が静かになるようだ、とか主観ではいろんな表現があるけど、
      あんまり言うとオカルトになっちゃうから止めておこう。」

アリス  「微妙なところなんですね。」

みみずく 「微妙といえば微妙だ。好みの問題もあるだろうしね。」

アリス  「性能が上がることは確かである、と。」

みみずく 「そういうことだね。さて、次はバイパス・コンデンサだ。実際にminiRegを改良した回路をみてみよう。」

アリス  「ずいぶんパーツが増えてますね。この0.01μFのコンデンサーがバイパス・コンデンサーなの?」

みみずく 「そうだよ。どんな役割があるだろうね?」

アリス  「えっと…、コンデンサーは交流では導通したとみなせるから…、高周波領域ではカソードとリファレンスの交流電位がほぼ等しくなります。
      その結果、高周波領域ではTL431の動作がトランジスターに伝わりません。」

みみずく 「たしかに、結果的にVoutの高域での利得(ゲイン)が減る。だいたい100k〜1MHz付近でのはなしだ。
      実はTL431は1MHzくらいまでが反応速度の限界なんだ。だから、それ以上の周波数には追従させない方が安定する。
      TL431とトランジスターの間に入っている30Ωも高周波を減衰させるために入れてあるものなんだよ。
      しかし、実際にはこのバイパス・コンデンサーの重要な目的は有効帯域でTL431のゲインを高めることにある。」

アリス  「えーと…少しだけわかってきたのは…つまり、TL431の性能をギリギリいっぱいまで使うための工夫なんですね。」

みみずく 「これが、おそらくはTL431のほぼ全力を引き出せる定数だろうと思う。」

アリス  「わかりました。では早速、取り掛かりたいと思います。」

みみずく 「出来上がりを楽しみにしているよ。」

アリス  「任せてくださいよー。みみずく先生、今日もありがとうございました。」


8/29 定電流値に誤記があったため訂正しました。
回路図を差し替えました。


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