アリスのフルディスクリート・シャント・レギュレーター
AL431 その1

※電源ICとして有名なシャントレギュレーター TL431と互換で、正電源はもちろん負電源用としても使用可能です。


アリス  「みみずく先生、お久しぶりです。」

みみずく 「やあ、アリス。ほんとに久しぶりだね。」

アリス  「やっとお会いできました。音信不通なんてヒドイじゃないですかぁ〜。」

みみずく 「すまなかったね。まぁ、なんだ。
      新製品の開発に行き詰ってしまって、ちょっとばかり逃亡していたんだよ。」

アリス  「何はともあれ、ご無事なようで何よりです。
      ところで、さっそく見て欲しいものがあるのでーす。」

みみずく 「お、新しい基板のアートワークだね。何の回路だい?」

アリス  「シャントレギュレーターTL431をディスクリート回路にしたものです。
      名前はAL431です。“AL”はモチロンAliceの頭二文字です。」

みみずく 「ほぉ、面白そうじゃないか。」

アリス  「TL431のデータシートの回路図↓を参考に、見様見真似でアートワークしてみました。」

みみずく 「こりゃあ、なかなか頑張ったなぁアリス。
      トランジスターは表面実装部品(SMD)を使うんだね。」
      ※SMD:Surface Mount Device

アリス  「はい。今回は回路規模が大きいし、なるべく小型にしたくて。
      SC59パッケージのトランジスターを使えるようにしました。」

みみずく 「ふむ。SMDトランジスターとしては比較的大きい方だし、
      手で実装することを考えるといい選択じゃないかと思うぞ。」

アリス  「そうですかぁ。良かったです♪
      ところで、面白そうなのでアートワークまで作ってはみたんですけど、
      工場に発注するかどうか迷ってるんです。
      そもそもICのTL431をわざわざディスクリート回路に組みなおすのって何かメリットがあるんでしょうか?
      いまさらだけど。」

みみずく 「そうだなあ。メリットはいくつかあると思うよ。こんなところかな?」
      ・SMDトランジスターは今後とも入手が容易
      ・高耐圧にできる
      ・ローノイズにできる
      ・高出力にできる
      ・負電源を負帰還(NFB)で制御できる

アリス  「けっこうあるんですね。」

みみずく 「そうだね。
      例えば、ディスクリート・トランジスターはどんどん製造中止になっているんだけど
      SMDは需要があるのでまだしばらくは供給が継続されると思う。
      選択できる品種は一昔前と比べて激減しているんだけれどね。
      いずれにしても、今後はトランジスターやFETなどのディスクリート半導体は
      SMDを活用せざるを得ない。」

アリス  「今までのトランジスターを使うと基板が大きくなりすぎてしまうので
      SMDの採用は苦肉の策なんですけど、そんなメリットがあるんですね。」

みみずく 「小型化によって性能も上がるだろうしね。
      あとは、AL431は部品の選定によって高耐圧化できる。
      TL431の最大定格は36Vだけれども、容易にこれを上回ることができる。」

アリス  「あ、それなんですけど、電源用の整流基板のUBR−1を設計したときのことを参考に
      最小パターンギャップを0.8oにしてアートワークしてみたの。」

みみずく 「0.8oならギリギリで300Vくらいまで使えるかもね。まぁ、実験は慎重にやる必要があるが。」

アリス  「最大定格が300Vなら真空管の電源を定電圧安定化電源にするような用途にも使えますよね?
      そういうのも楽しいんじゃないかなって。」

みみずく 「その場合、注意点としてはトランジスターだけでなく
      抵抗やコンデンサー、ダイオードなどの他のパーツも高耐圧のものにすることだね。
      トランジスターは2sa1721、2sc4497あたりかな。
      ちょっと直流電流増幅率が低いけど高耐圧品はあんまり選択肢が無いからなあ。」

アリス  「何とかなりそうですね?」

みみずく 「動かすことは可能だろうね。どんな動作をするのかは、やってみるまでわからないが。」

アリス  「ローノイズにできる、というのは?」

みみずく 「耐圧50V〜120V程度までであれば、TL431に内蔵されているトランジスターよりも
      ずっと高性能でローノイズのものを使うことができる。
      抵抗器についてもシリコン基板上に成形されているものよりも
      金属被膜抵抗器などの個別部品の方がローノイズのことが多い。
      耐圧50Vくらいまでは部品の選択肢がとても多いので、
      カスタムチューンがやりやすいと言うことも利点かな。」

アリス  「あたしはエフェクターの電源の改造に使いたいので
      チューニングができると言うのはとってもメリットです♪
      AL431をV.Regの改造に使ったらどんな音がするのかなぁ。ワクワクします♪」

みみずく 「他には高出力化だね。アリスのアートワークを少し変更しなければならないけど
      出力のトランジスターに通常のスルーホール実装品を使えるようにしておくと
      最大電流の上限を伸ばすことができる。
      TL431の最大電流は100mAだけど、これ以上にすることはとてもカンタン。」

アリス  「わかりました。アートワークを変更してみます。」

みみずく 「すこし基板が大きくなってしまうけどね。」

アリス  「最後の“負電源でNFB”というのはちょっと意義がありますよね、みみずく先生?」

みみずく 「そうだね。
      TL431は正電源用のシャントレギュレーターIC。
      負電源用のシャントレギュレーターICはこの世に存在していない。」

アリス  「TL431の回路では、単純にNPNトランジスターとPNPトランジスターの配置を逆にするだけで
      正負対称な回路になります。(ダイオードの向きも反対に。)
      ということはAL431は一枚の基板をカンタンに正負両用に使い分けられるということ♪」

みみずく 「以前にアリスが作った負電源用の安定化電源基板、
      miniReg(-)、miniReg2(-)、V.Reg(-)には正電源用のTL431を応用的に使ったけど、
      そのせいでNFBモードは本来の機能を果たしていなかったよね。※参考

アリス  「そうでした、そうでした。」

みみずく 「AL431を負電源用にセッティングすると、
      制御能力の高いNFBモードを負電源の安定化電源でも正電源と同じように使えるようになる。
      ちょっとばかり電源回路の変更は必要になるけれどね。」

アリス  「電源回路も正負対称になりますものね。
      回路図で見たほうがよいかしら?
      miniReg2(-)の回路図を参考例にしてみます。」

 ※注:AL431(−)をminiReg2(−)に実装してもピン配置が異なる為に正常動作しません。

みみずく 「そう、そういうことだね。
      ちなみにAL431は負電源用として使った場合でも
      TL431の使い方やノウハウをそのまま負電源用に応用できる。
      これも隠れたメリットだね。
      負電源用のAL431はC:カソードとR:リファレンスの間の電圧を約2.5Vに保とうとする。
      (TL431や正電源用AL431はA:アノードとR:リファレンスの間の電圧を約2.5Vに保とうとする。)」

アリス  「あ、そういえば大事なことをみみずく先生に聞こうと思ってたんです。」

みみずく 「なんだい、アリス?」

アリス  「TL431の回路図にはヘンな抵抗値がいっぱい出てきます。
      入手ができなさそうな値もあるのでどうしたらいいのかな?と思って…」

みみずく 「あぁ、確かにそうだね。
      複数の抵抗を組み合わせてやれないことも無いけど、それだと小型化の障害になるしね。」

アリス  「そうなの、そうなの。」

みみずく 「そうだね、
      問題のなさそうなところを入手性の良いE24系列の抵抗値に近似的に変更してしまおう。
      それで、一部を半固定抵抗器にして微調整できるようにするといい。
      温度特性に優れるサーメット・トリマを使おう。
      素子のバラつきを吸収する為にも微調整ができた方がいいし、
      出力電圧の調整ができればAL431を基準電圧源として使う場合にメリットが大きくなるだろう。」

アリス  「よかったぁ。こういうことって、まだあたし一人じゃ考えられなくって…
      ありがとうございます。みみずく先生。」

みみずく 「どぉーいたしまして、だよ。
      私もこの基板に興味がある。」

アリス  「モチロン、出来上がったらお持ちいたしますね。」

みみずく 「楽しみにしているよ。」

アリス  「それでは、さっそくアートワークを変更して発注したいと思います。」



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