アリスのV.Reg2 の巻 その2

(AL431搭載型 可変 定電圧安定化電源基板、入力AC、DC両用)

【 使い方考察 】


アリス  「V.Reg2(+)&(−)はセッティング自由度の高く応用範囲の広い可変・定電圧安定化電源基板です。
      しかし、自由度が高いということはセッティングを詰める為の方法論があったほうが良いですし、
      応用範囲についても具体例があった方が発想の参考になるかもしれません。」

みみずく 「回路技術としては基礎的なものだし、ひとつひとつ計算を積み上げていけば難しいことではないんだけどね。」

アリス  「最近は勉強しに来てくれる人も多いようなので、みみずく先生にも手伝ってもらいながら、
      V.Reg2の使い方について参考になりそうなことをまとめてみたいと思います。」


【 V.Reg2(+) 回路図 】


【 V.Reg2(−) 回路図 】


【最初にやること(出力の決定) → トランジスターの選定】

アリス  「最初にやることって何ですか?」

みみずく 「まぁ、電源なんだから何かに使うわけだけど、用途が決まれば電源に必要とされる出力電圧と出力電流が決まる。
      これが最初にやることだね。」

アリス  「ここで、出力電圧と最大出力電流をかけたものが最大出力と定義されます。」

  電源の最大出力(W)=出力電圧(V)×最大出力電流(A)

みみずく 「さて、次には入力電圧を決める。V.Reg2はシリーズ型レギュレーターやドロッパー型レギュレーターと呼ばれる電源方式だ。
      この電源方式は入力電圧から出力電圧を取り出すときに、余分な電圧を熱として内部で消費する特徴がある。
      だから、入力電圧、出力電圧、出力電流の三要素が決まれば発熱量を計算することができる。これが次にやること。」

アリス  「シリーズ型電源の発熱量は次のように定義されます。」

  電源の発熱量(W)={入力電圧(V)−出力電圧(V)}×最大出力電流(A)

みみずく 「ここで大事なことは最大出力(W)と発熱量(W)を混同しないこと。
      出力が小さくても入力と出力の落差が大きければ発熱量は大きくなる。
      シリーズレギュレーターはローノイズかつ追従性に優れた電源なのだが、
      この発熱の問題があるために変圧トランスと組み合わせて使用されるケースが多いわけだ。」

アリス  「変圧トランスを使うことで、入力電圧と出力電圧の落差を抑えているんですね。」

みみずく 「そういうこと。ところで、電源の発熱量(W)のほとんどは出力トランジスターで発生している。
      このトランジスターの発熱のことをコレクター損失という。」

  電源の発熱量(W)=出力トランジスターのコレクター損失(W)

アリス  「ここまでくればトランジスターの選定ができます。」

みみずく 「トランジスターのデータシートを眺めて、

  最大コレクタ・エミッタ間電圧(Vce)
  最大コレクタ電流(Ic)
  最大コレクタ損失(Pc)

      に注目する。だいたい最初のページに載っている。
      これは絶対定格の数値なので、文字通り一瞬たりとも超えてはならない。
      具体的には以下の条件を満たしていれば基本的には大丈夫。」

  V.Reg2の入力電圧 ≦ 最大コレクタ・エミッタ間電圧(Vce)
  V.Reg2の最大出力電流 ≦ 最大コレクタ電流(Ic)
  V.Reg2の発熱量 ≦ 最大コレクタ損失(Pc)

アリス  「小売店の販売リストとデーターシートを交互にじーっと見つめながら採用するトランジスターの候補を選び出します。」

みみずく 「さて、少しわかり辛いだろうから具体例で検討してみよう。
      出力電圧9V、最大出力電流0.5Aの電源を作りたいとしよう。
      そして、たまたま24Vの電源アダプターを持っているからこれを入力に使ってみようと思ったとしよう。」

  24V電源アダプター → V.Reg2(+) → 9V、0.5A

アリス  「計算してみるとこうなりますね。」

  V.Reg2(+)の出力 = 出力電圧9V×出力電流0.5A = 4.5W

  V.Reg2(+)の発熱量 = {入力電圧24V−出力電圧9V}×出力電流0.5A = 7.5W = コレクター損失

みみずく 「実際に手元にあるトランジスターが使えないか検討してみよう。」

アリス  「ここで、具体例としてパワートランジスターに2SC3421と2SC3422を考えます。
      小信号用トランジスターには2SC1815GRを使います。」

  2SC3421Y Vce=120V Ic=1A Pc=1.5Wta、10Wtc
  2SC3422Y Vce=40V Ic=3A Pc=1.5Wta、10Wtc
  2SC1815GR Vce=50V Ic=150mA Pc=400mW

みみずく 「ここで、Pcにta、tcと2種類あるが、taは25℃の空気中でのトランジスター単体での数値で、
      tcは25℃の空気中でトランジスターを大きな放熱器に取り付けたときの数値。
      ともに定格値だから実際のコレクター損失はこれ以下である必要がある。
      V.Reg2(+)の発熱量は7.5WでどちらのトランジスターもIc=10Wtcだから、大きな放熱フィンを使えば何とかなりそうだが、
      やっぱりちょっと発熱量が大きすぎて無駄が多い。」

アリス  「と、いうわけで15Vのアダプターを買ってきたので、計算結果は次のように修正されます。」

  15V電源アダプター → V.Reg2(+) → 9V、0.5A

  V.Reg2(+)の出力 = 出力電圧9V×出力電流0.5A = 4.5W

  V.Reg2(+)の発熱量 = {入力電圧15V−出力電圧9V}×出力電流0.5A = 3W = コレクター損失

みみずく 「コレクター損失3Wであれば小型の放熱フィンでも対応可能だ。
      また、V.Reg2の性能を活かすためにも入力と出力電圧の落差(ドロップ電圧)は5V以上が望ましいから、その点でも合格だな。」

アリス  「第一段階はクリアできたようなので、2つのパワートランジスター候補のどちらかに決定したいと思います。」

みみずく 「定格をクリアーしてトランジスターの候補を選び出したら、コレクタ電流と直流電流増幅率(hFE)の関係に注目する。
      データシートにグラフが載っているからV.Reg2に想定している最小出力電流と最大出力電流の範囲でhFEを読み取る。
      これは実は重要な作業なんだ。」

アリス  「データシートのグラフを読むと2SC3421はコレクタ電流3mA〜100mAの範囲でhFEは120くらいありますけど、
      500mAでは100以下に落ちてます。2SC3422は10mA〜500mAの範囲でhFEは120くらいあります。」

みみずく 「そうだね、2SC3421は300mA以上でhFEの低下が始まっている。
      2SC3422は1A以上でhFEの低下が始まっている。
      hFEが低下するということはトランジスターの性能が低下していることを意味する。」

アリス  「ということは、今回の電源では2SC3422Yを採用するのがいいんですね。」

みみずく 「それがよいと思う。最大定格だけを見ていると、どちらのトランジスターも使用可能なように見えるし実際に使うことができる。
      トランジスターを選定する上で大事なパラメーターは最大定格だけではないということがここまでの要点だよ。」

アリス  「ところで、出力が300mAまでの場合はどちらを選んだらいいんですか?みみずく先生?」

みみずく 「お、いい質問だねぇ。その場合はコレクタ出力容量(Cob)やトランジョン周波数(fT)に注目しよう。
      大雑把に言うと、これらはトランジスターの反応速度と関係がある。品種によってはグラフも載っているんだけど今回は一元の数値だけだね。
      同じ条件でのデータが載っているのはCob。この数値が小さいほど高速動作が得意だと考えてよい。
      2SC3421は15pF、2SC3422は35pF。
      これだけで比較すると300mA以下の領域では2SC3421を使った方が良い結果が出るかもしれない。
      但し、2SC3421のVceは120V、2SC3422のVceは40Vなので低い電圧で使う分には2SC3422の方が良好な可能性もある、
      ということは頭の片隅に入れておいても損はない。」

アリス  「やはり最終的には実際に使ってみての判断もあり、と言うことですね。」

みみずく 「そうだねぇ。特にオーディオの電源に使用した場合の音質などについては、やはり聴いてみるまでわからないことが多いかな。」

アリス  「とりあえず、めぼしいトランジスターの基本パラメーターを列挙しておきます。」

  2SC1815 GR (50V , 150mA , 400mW , hFE200-400) NPN小信号用トランジスター、汎用、TO-92、コンプリ2SA1015
  2SA1015 GR (50V , 150mA , 400mW , hFE200-400) PNP小信号用トランジスター、汎用、TO-92、コンプリ2SC1815
  2SC2240 GR (120V , 100mA , 300mW , hFE200-400) NPN小信号用トランジスター、ローノイズ、TO-92、コンプリ2SA970
  2SA970 GR (120V , 100mA , 300mW , hFE200-400) PNP小信号用トランジスター、ローノイズ、TO-92、コンプリ2SC2240
  2SC3421 Y (120V , 1A , 1.5/10W , hFE120-240) NPNパワートランジスター、TO-126、コンプリ2SA1358
  2SA1358 Y (120V , 1A , 1.5/10W , hFE120-240) PNPパワートランジスター、TO-126、コンプリ2SC3421
  2SC3422 Y (40V , 3A , 1.5/10W , hFE120-240) NPNパワートランジスター、TO-126、コンプリ2SA1359
  2SA1359 Y (40V , 3A , 1.5/10W , hFE120-240) PNPパワートランジスター、TO-126、コンプリ2SC3422
  2SC5200 O (230V , 15A , 150Wtc , hFE80-160) NPNパワートランジスター、TO-3、コンプリ2SA1943
  2SA1943 O (230V , 15A , 150Wtc , hFE80-160) PNPパワートランジスター、TO-3、コンプリ2SC5200


【AL431の発熱量を考慮する】

アリス  「続いてAL431の定格についての検討ですよね。」

みみずく 「AL431のキット付属パーツでは、最大定格は最大電圧50V、最大電流150mA、最大発熱量150mWになる。」

アリス  「V.Reg2が設計範囲で動作しているときに、当然、搭載されたAL431もこの定格内で動作している必要があります。」

みみずく 「このなかで最も注意を払わなくてはならないのが発熱量。これは定格を超えやすい。」

アリス  「そもそもシャントレギュレーターは発熱量が多いことが特徴のひとつですものね。」

みみずく 「特に使用電圧を高めにとった場合には、適当な定数設定をすると簡単に発熱量が定格オーバーしてしまう。
      AL431は出力トランジスターをSC59パッケージとした場合、最大定格150mWなので、
      実際には100mWまでの発熱量で使うのがよいだろうね。」

アリス  「ということは、仮にAL431に50Vがかかっていた場合には

  0.1(W)÷50(V)=2(mA)

      なので、V.Reg2を入力50V以下で使用する場合には、AL431には2mA以下しか流れないようにしておけば、
      定格オーバーはない、と言うことですね。」

みみずく 「そういうこと。話は前後するけど、AL431に駆動電流を供給する場合、
      J−FET(2SK30)とR4=330Ωを使った定電流回路からは約2mA前後の定電流が供給されるから、そういう面でも都合が良い。」

アリス  「ジャンパー(JP1)を使った機能ですね。定電流(ConstC)ではなく抵抗のみ(R)=R3を選択した場合はどうなりますか?」

みみずく 「その場合はR3の抵抗値によるけれども、
      AL431が最大に発熱するのはV.Reg2への入力電圧の半分の電圧がAL431にかかっているときだと大雑把に考えてよい。
      例えば、V.Reg2への入力が50Vだとして具体的に考えてみよう。」

アリス  「キットではR3=2.2kΩですから、R3に50Vの半分の電圧がかかった場合に流れる電流は

  {50(V)÷2}÷2200(Ω)=0.0114(A)

      その電流の全てが25Vを発生させているAL431の中を流れたとすると

  25(V)×0.0114(A)=285(mW)

      あれ?AL431の最大定格の150mWをオーバーしてます!」

みみずく 「そうだね。定格オーバーだ。このくらいのオーバーだと間違いなく壊れる。
      この場合、AL431の出力トランジスターをSC−59パッケージから交換用予備として付属している
      TO−92パッケージのものに交換した方が良い。そうすると300mWくらいの発熱なら許容できるようになる。
      それと、忘れがちなのが抵抗の許容発熱量
      キット付属の抵抗器は1/4W定格だから、つまり250mWが最大定格。実際にはその半分くらいで使う。
      R3=2.2kΩに25Vかかっていると、その発熱量は

  {25(V)^2}÷2200(Ω)=284.1(mW)

      となり、定格をオーバーしている。この場合は1/2W定格以上のものに交換する必要がある。
      以上をまとめると、AL431への電流供給を抵抗のみ(R3=2.2kΩ)とした場合は、だいたいの目安としてこのように考えると良いことになる。」

  ●V.Reg2への入力が30V未満 … AL431の出力トランジスターはSC−59パッケージでOK

  ●V.Reg2への入力が30V以上 … AL431の出力トランジスターをTO−92パッケージ以上の大型のものに交換

  ●R3(2.2kΩ)にかかる電圧は17Vか多くても20Vくらいまで。それ以上の場合には1/2W以上のものに交換


【再びトランジスターのhFEをチェック】

みみずく 「ところで、AL431の動作の検討を進めるうえで、先に出てきた出力トランジスターのhFEが重要になってくる。」

アリス  「ほんのりと専門的になってきました。」

みみずく 「別に難しくはないよ。トランジスターはベース電流をhFE倍した電流をコレクター電流に流せる仕組みだから、
      逆算して必要なベース電流を求めようということ。」

アリス  「もう一度データシートを見てみると、2SC1815GRのhFEは200〜400、2SC3422YのhFEは120〜240のようです。」

みみずく 「V.Reg2は出力トランジスターQ2をQ1でコントロールする二段ダーリントン接続になっている。
      ダーリントン接続の場合、hFEは2つのトランジスターの数値を掛け合わせたものになる。」

アリス  「ということは、Q1に2SC1815GR、Q2に2SC3422Yを使った場合、そのhFEは最低でも200×120=24000ということになりますね。」

みみずく 「そうすると、出力電流0.5Aの電源の場合、Q1に供給するベース電流は0.5(A)÷24000=0.021(mA)ということになる。
      このベース電流はAL431に供給される電流の一部をおすそ分けするように供給される。
      AL431へ供給されるアイドリング電流がベース電流の10倍以上あるときには、まあ、あんまり気にする必要は無い。」

アリス  「通常の使用ではあんまり問題にならないみたいですね。」

みみずく 「そうだね。あとは逆にAL431に流すアイドリング電流を絞りすぎてしまうと、
      AL431の性能が発揮できなくなる場合があるので別に注意が必要かな。
      AL431に使うトランジスターにもよるけど、基本的には0.5〜1mA以上流しておけば大丈夫だとは思うが。」

アリス  「いろいろ考えることがあるんですねー。」


【CRフィルターのセッティング】

みみずく 「続いて入力のCRフィルターのセッティングについてだな。」

アリス  「やっと来ました!みみずく先生の大好きなCRフィルターですね。」

みみずく 「そのとおりだ。良くわかってるじゃないか、アリス。」

アリス  「みみずく先生から折に触れて説明を受けるので、あたしも感化されてきました。」

みみずく 「いいことだ。いいことだ。」

アリス  「V.Reg2が入力にCRフィルターを備えていることには以下のメリットがあります。」

  @スイッチング電源や整流ダイオードから発生するパルス状の高周波ノイズを減少させる。
  A整流直後のリプルを減少させる。
  Bデカップリングの作用によって下流の回路の独立性を高める。
  C過電流保護作用がある。
  Dスロースタート作用がある。突入電流を防ぐ。

みみずく 「まさに、そのとおりだ。V.Reg2の入力CRフィルターは電力回路の一部なので、
      定数の決定には電圧降下量と発熱量を考慮して、とり得る値の範囲を検討するというのが基本的アプローチになる。
      そして、CRフィルターは伝達特性を持つのでそのセッティングは音に影響する。
      つまり、チューニングできる箇所でもある。定数の決定は試聴のうえ慎重に行いたいところだね。」

アリス  「入力CRフィルターは抵抗(R1)とコンデンサー(Cin)で構成されています。
      R1の値は比較的制限があり、Cinの値は比較的任意です。」

みみずく 「V.Reg2の出力電流をIout(A)とすると

  R1の電圧降下(V)=R1(Ω)×Iout(A)

  R1の発熱量(W)=Iout(A)^2×R1(Ω)

      となる。配慮することはR1以外のドロップ電圧の余裕を4V以上残しておくこと。

  入力電圧(V)−R1の電圧降下量(V)−V.reg2の出力電圧(V)≧ 4(V)

      発熱量については、その倍以上の定格を持つ抵抗を使えばOK。大事なことはこのくらい。

アリス  「では、R1=3.3Ωとして実際に計算してみたいと思います。
      入力15V、出力9V、0.5Aの電源では

  R1の電圧降下(V)=3.3(Ω)×0.5(A)=1.65(V)

  R1の発熱量(W)=0.5(A)^2×3.3(Ω)=0.825(W)

  入力電圧15(V)−R1の電圧降下量1.65(V)−V.Reg2の出力電圧9(V)=4.35(V)≧ 4(V)      

      ということになります。R1は3.3Ω2W品が適合と言うことですね。」

みみずく 「そんなカンジでいいと思うね。それと、計算してわかると思うけど、入力CRフィルターのRは、
      電源回路の発熱と電圧の一部を引き受けることができるので、出力トランジスターなどの負担を肩代わりできる。
      慣れてくるとその辺の帳尻併せもできるようになってきて、それはそれで面白いことなんだよ。」

アリス  「後はCinの静電容量についてですね。」

みみずく 「Cinはどんな値のものでもちゃんと動くけど、それぞれに音には違いが出る。
      CinとR1はCRフィルターの中でもローパスフィルター(LPF)というものを構成している。
      カットオフ周波数は以下の式で計算できる。

  カットオフ周波数(Hz)=1÷{2×π×Cinの静電容量(F)×R1(Ω)}

      通過する信号は、ちょうどこの周波数で−3dBになり
      それ以上の周波数については−6dB/oct(周波数が倍になるたびに信号レベルが半分)になる。」

アリス  「その作用によって高周波ノイズやリプルを減少させてるんですね。」

みみずく 「まあ、そんなところ。CRフィルターは奥の深い回路だから、いろいろと工夫してみるといいんじゃないかな。
      ちなみに、Cin(F)×R1(Ω)の値を『時定数』というんだけど、
      この数値が大きいほどカットオフ周波数が下がり、また、スロースタートがよりゆっくりかかるようになる。」


 

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