Tripath(トライパス) TA2020-020初段直結化 DCアンプ・スペシャル の巻き

※入力のカップリングコンデンサーを排除し、入力から出力まで直結化されたDCアンプになってます。

その3

 

アリス  「…と、いうわけで。」

みみずく 「ああ…」

アリス  「やぁーーーーーっっと、完成しましたぁぁぁ〜♪」

みみずく 「ほんとにお疲れ様。よく頑張ったね、アリス。」

アリス  「あたし、今回はほんとにホントに頑張りました。
      最初から身の程知らずな挑戦だと思ってましたけど、やっぱりそうでした。」

みみずく 「終わってなお、グチが出るほど大変だったというわけだ。」

アリス  「わたしはものすごーーっく、勉強になったからいいけど、始終みみずく先生に頼りきりでした。
      ほんとにありがとうございます。」

みみずく 「なぁに、私もアリスをたきつけてしまった責任はあるからね。
      しかし、思っていたよりも大変だったねぇ。」

アリス  「しかし、目的は見事達成できたと、あたしは激しく自画自賛しまーす♪」

みみずく 「いい音になってよかったよな。危うく企画が流れるかとヒヤヒヤしたぞ。」

アリス  「あたしだってドキドキでしたよ〜。
      入力のカップリングコンデンサーよりも音のいい直結回路を作ることがこんなに大変だったなんて…。
      おかげで、みみずく先生の本気をちょっとだけ見ることができました。」

みみずく 「まぁ、ある程度の試行錯誤は必要だったしね。
      成果が出て私としても嬉しいよ。」

アリス  「ところで、その試行錯誤をちょっとだけ振り返ってみたいと思います。」


【入力直結回路】

アリス  「入力のカップリングコンデンサーに取って代わる直結回路ですが、
      これはワリとすぐに動いたんですよね?」

みみずく 「そうだね、試作した実験回路がいきなり正常に動いてしまった。
      トライパスに入力直結回路が使用可能なことが改めて確認できた。ところが…」

アリス  「音がワルくて仕方ありませんでしたよね。」

みみずく 「そうそう。もちろん音がよい直結回路のつもりで設計していたから、とてもがっかりした。
      それで、お、これはちょっと難しいぞー、と思った。」

アリス  「ここで、いきなりわたしの手に負えなくなってしまいました。
      図書館やネットでもいろいろ調べてみたんですが、役に立ちそうな手がかりは何も見つかりませんでした。」

みみずく 「それで結局、手当たり次第に試すことになるわけだ。
      音のいい回路なんて、そうでもしないと見つからないもんだよ。」

アリス  「わたしにはいい経験でしたよ。開発ってこうやるんだぁ、って思いました。」

みみずく 「きっと、普通はもっとスマートにやるんだろうね。
      さて、今回はいくつか厄介な点があった。覚えてるかい、アリス?」

アリス  「はい、覚えてます。まとめると3つだったと思います。」

   @トライパスの入力バイアス電圧は2.5V前後であるが、単純な回路ではFETのロードラインが取れない。

   Aトライパスの入力バイアス電圧には、実はけっこうな個体差があり、さらに実は時間や温度で変動する。

   Bトライパスの入力バイアス電圧に追従しても、トライパス単体でDC漏れを起こすことがある。

みみずく 「そうだね、そして安定性を重視した回路はことごとく音がワルくて使い物にならなかった。」

アリス  「そして、DCサーボとあわせて解決したんですよね。」


【DCサーボ】

みみずく 「アリス、DCサーボって何だったかな?」

アリス  「はい。えと、可聴帯域よりも低い周波数に強い負帰還をかけて、
      出力から直流が漏れることを押さえ込む制御のことです。」

みみずく 「そうだね。
      実際には直流だけを止めることはできなくって、その周辺の低周波の出力レベルも下がる。」

アリス  「見かけ上は、カップリングコンデンサーによって直流をカットしたときと同じようになるんですよね。」

みみずく 「そう。それなら意味が無いじゃないかということになるのだが、いくつかメリットがあったよね?」

アリス  「はい。低音を良く通すためにはカップリングコンデンサーの静電容量を増やす必要があります。
      品質の良いフィルムコンデンサーは容量が増えるにつれて巨大化するので、小型高容量の電解コンデンサーに頼らざるを得ません。
      電解コンデンサーはフィルムコンデンサーよりも伝達特性で劣ります。
      DCサーボにもローパスフィルターにコンデンサーが使われますが、
      回路インピーダンスを上げることで小容量のフィルムコンデンサーでも同様の効果を得ることができます。」

みみずく 「一般的にはそうだね、もうひとつは何かな?」

アリス  「入力のカップリングコンデンサーはシンプルかつ非常に有効な方法です。
      しかし、全ての入力信号がカップリングコンデンサーを通過するうえに入力カップリングコンデンサーは負帰還ループから外れているため、
      ここで発生した信号歪みを補正可能な手段がありません。
      DCサーボの場合は信号のメインルートには配置されておらず、
      さらにハイインピーダンスかつ超低周波の伝達特性とすることで、容易にこの問題を回避できます。」

みみずく 「ところで、今回のキットでは超低周波DCサーボとするためにDCサーボのローパスフィルターに電解コンデンサーを使用している。
      そのおかげで、入力カップリングコンデンサーでは難しいほどの低域特性を実現しているわけだけれども、
      今回については電解コンデンサーを使用しても特に音質の劣化は起こらない。
      それはどうしてかな?」

アリス  「DCサーボの駆動にJ-FETオペアンプを採用することでサーボの信号経路をよりハイインピーダンスにすることができたからです。
      そうすると、主信号経路から見てコンデンサーの存在はほとんど無視できるようになり、音質に対しての影響がとても小さくなります。」

みみずく 「うーむ、すばらしい回答だ。いきなり成長してしまったようだね、アリス。」

アリス  「えへへ♪みみずく先生のそばで見ていた甲斐がありました♪」

みみずく 「で、結局、トライパスの入力バイアス電圧へ追従することは止めて、
      トライパスの出力からのDC漏れが少なくなるように、トライパスの入力バイアス電圧自体をサーボするやり方へと変更した。」

アリス  「地味だけどナイスアイディアなんですよね♪」

みみずく 「そうだね、バイアス電圧への追従と、DC漏れの阻止を同時に達成するこのアイディアのおかげで、
      多少の不安定さがあっても音の良い直結回路を作ることができた。」


【non-NFB/NFB選択プリアンプ & バスブースト回路】

みみずく 「DCサーボを独立させることで、音の良い入力直結回路を作ることができたのだけど、
      この直結回路は事実上プリアンプとして機能する。
      と、言うかまんま音の良いFET差動プリアンプ回路を搭載できた、と言った方が正しい。
      このプリアンプにはちょっと変わった仕掛けがあるよね?」

アリス  「はい、non-NFB(無帰還)モードとNFB(負帰還)モードの使い分けをわずかな変更で行えることです。
      また、NFBモード時にはバスブースト回路も使用可能になります。」

みみずく 「もちろんnon-NFBとNFBはスイッチひとつで切り替えると言う具合にはいかないけどね。
      それでもとても簡単に行える。
      バスブーストは負帰還ループの一部を利用したものなのでNFBのときしか使用できないけど、
      ま、遊ぶには面白いんじゃないかな。セッティングの変更も可能だし。」

アリス  「non-NFBモードとNFBモードでは音に違いがありましたよね?」

みみずく 「アリスはどんなふうに感じた?」

アリス  「そうですね、non-NFBモードはすっきりしていて、ふわっとした音場が広がります。
      どんな音でもストレスなく聴かせてくれるように感じます。
      わずかにノイズレベルが高くなるけど心地よい音です。
      特にボーカルに良さがあるみたいです。」

みみずく 「ふむふむ。」

アリス  「NFBモードは音にパンチがあります。メリハリが強く定位感が強まります。
      迫力があって気持ちいいです。
      低音はこっちの方が強いかも?」

みみずく 「それぞれ特徴があって面白いよな。
      ちなみにNFBモードは2つの調整機構が干渉しあうので調整がちょっとばかり難しくてコツがいる。
      簡単に作れて確実に動作するのはnon-NFBモードのほうだね。」

アリス  「でも、この音を聴くと、きっとどちらも試したくなっちゃうわ。」

みみずく 「その場合は、まず最初にnon-NFBモードで組み立てるのがいいね。
      それで充分に試聴してからNFBモードに変更する。
      non-NFB→NFBの変更は簡単にできるからね。
      NFB→non-NFBの変更にはパターン切断など基板の加工が必要だが、再度non-NFBモードに戻すことが可能だ。」

アリス  「いろいろ遊ぶにはもってこいと言うわけですね。」


【分割給電、アース分離】

アリス  「これは、わたしの自力でやれました。えっへん♪」

みみずく 「電源回路の勉強が役立ったようだね。」

アリス  「基本的にはキットで作った『V.Reg』と同じ回路なんですけど、定数の調整などに気を使ってみました。」

みみずく 「これは高音質化に確実に効果があったね。」

アリス  「はい、各所に分割給電することとあわせて、パワーグランドとアナロググランドの分離をやったんですが、ともにとても効果がありました。
      一言で言うと音が上質になります。滑らかでキメが細かくなる感じです。
      電源の改良は確実に効果がでるポイントですね。」

みみずく 「グランド(アース)の分離には具体的にどんなことをやったんだい?」

アリス  「まず、配線パターンを完全に分離したうえで、高周波吸収用のフェライトビーズを介して一点接続としました。
      インダクター(コイル)よりもフェライトビーズの方が良い効果がありました。」

みみずく 「フェライトビーズもインダクターの一種なんだけど少し磁気的性質が違うからね。
      今回はフェライトビーズの方が適していたんだろう。」

アリス  「わたしには、とても、とても勉強になりました。」


【保安回路】

アリス  「今回は実験的な回路だし、万が一の事故に備えてスピーカーを保護するための保安回路を作ったんですよね。」

みみずく 「まぁ、地味だし、音には関係ないが大事なところだからね。」

アリス  「ですが、またまた、あたしには勉強になっちゃいました。
      音に関係ない回路ってなかなか知る機会が無いんですよね。
      こういったことを知っていると、かなり思い切った回路が組めるんだなって、良くわかりました。」

みみずく 「へぇ、殊勝なことを言うじゃないか。感心感心。」

アリス  「もう、茶化さないでください。本気でそう思ってるんですから。」

みみずく 「今回搭載した保安回路は3種類だ。
      つまり、起動遅延回路、出力DC検出回路、電源電圧監視回路の3つ。
      そしてそれぞれがトライパスとスピーカーを繋ぐリレースイッチの緊急遮断回路に命令を出せるようになっている。
      これらの保安ブロックは電源も制御系もアンプ本体とは独立して動作することで安全性を確保している。」

アリス  「TA2020-020はBTLアンプだから出力DC検出回路に少し工夫が必要だったんですよねー?」

みみずく 「そうだね、SEPPアンプとは違って普及している手法が使えなかった。ま、シンプルに上手くできたと思うよ。」

アリス  「あたし、このとき、みみずく先生ってアタマいいんだぁって思ったんです。」

みみずく 「ずいぶんズレたところでほめられてるようにも思うが…。」

アリス  「シンプルで確実に作動するってところに惹かれちゃいます♪」

みみずく 「君はエンジニアみたいな美意識の持ち主だってことかな?」


【その他】

アリス  「あとはトライパスの出力フィルターのインダクターにソレノイド型よりも高性能なトロイダル型を採用したことでしょうか?」

みみずく 「インダクターとしてはトロイダル型が最も理想的なものだからね。漏洩磁束も少ないし。
      当然、製作者自身に手巻きして自作してもらう。」

アリス  「あれ、面倒だったなぁ…。市販品じゃダメなの?みみずく先生?」

みみずく 「ひとつくらい自作の部品が入ってたって楽しいだろう?自作できるパーツなんてインダクターぐらいなんだよ?
      それに、丁寧に巻けば性能はとてもいいんだ。これは、私の愛だ。」

アリス  「愛なら仕方がありませんね。
      それはそうと、他には何かありましたっけ?」

みみずく 「直流24Vの単電源で動作可能にしたってところが工夫と言えば工夫かな。」

アリス  「あ、それがありましたね。ちょっとトラぶっちゃいましたけどね。」

みみずく 「まぁね。市販の24Vアダプターで動作させることが目標だったんだけど、これは断念した。」

アリス  「起動時の突入電流が大きすぎることが原因だと言ってましたよね?」

みみずく 「そうだね、たかだか1.5Aくらいなんだけどね。それでも市販のACアダプターはほとんど全滅だった。」

アリス  「秋月電子製のスイッチング電源アダプターは優秀なものが多いんですけど、
      一番大きな24V2.7Aのモデルを使っても60%の確立で起動に失敗しました。」

みみずく 「それじゃあ、使い物にならないよなぁ。」

アリス  「しかも、上手く起動しても音が良くなかったの。」

みみずく 「と言うわけで、どうしたんだっけ?アリス?」

アリス  「ACアダプターよりも優秀な組込み用のスイッチング電源ユニットを採用することにしました。」

みみずく 「この電源ユニットは突入電流制限機能を持っているので、大きな突入電流のある回路にも使用できるからね。
      そして、さらに高音質化を目指して…」

アリス  「ここで登場するのが『アリスのケミコンボード CB−36』です。やっと日の目を見ることに。」

みみずく 「電源ユニット→ケミコンボード→トライパス と言う具合に接続する。
      軽量だが大変能力の高い電源が実現できたわけだ。」

アリス  「みみずく先生がお持ちの大型電源装置と比べても引けを取らない出来になりましたよね♪
      あたしのケミコンボードが役に立ってほんとに良かったです♪」

みみずく 「もちろん、キット化にあたっては全て同じものを同梱することにするんだよね?」

アリス  「せっかく作るんならいい音で聴いてもらいたいですもんね〜♪
      あ、電源ユニットはみみずく先生が秋葉原で買ってきたものを原価でお付けします(実話)。
      だから、キットを購入する方にはお得だと思います。」

みみずく 「仕事のついでに買ってくるんだし、電車賃はいらないさ(実話)。」

アリス  「と、いうわけで、『Tripath(トライパス) TA2020-020 初段直結化DCアンプスペシャル キット』の組立てマニュアルを
      みみずく先生に書いてもらってます。今回はあたしの手には余るものなので…。」

みみずく 「マニュアル作成なんて、私は最も不適任者なんだけどねぇ…。
      時間かかるぞー、きっと…」

アリス  「添削はわたくしにお任せくださいね、みみずく先生♪」

みみずく 「はぁ、気が重いなぁ…」

 

≪その2へ  キットの説明と配布価格へ≫

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