アリスの定電流回路活用コーナー その1

(真空管ヒーター電源のための…)

 

アリス  「みみずく先生〜。」

みみずく 「やあ、アリス。今日も元気だね。」

アリス  「今回はお気楽おもしろいモノをつくろうと思いまして。」

みみずく 「おや、どんなモノだい?」

アリス  「真空管のヒーター電源用の定電流回路です。」

みみずく 「アリスが真空管をやるのは初めてじゃないかな?
      なにかきっかけがあったのかい?」

アリス  「少し前にminiReg2のユーザーさんからメールが来たんですけど、
     『真空管のヒーター回路にminiReg2(+)でつくった定電流回路を使ったら音がイイで〜♪』
      という内容だったので興味を持ったんです。
      それで、お友達のレコーディング・エンジニアに話したら、
      真空管マイクアンプかプリアンプの改造に試してみたいって言うので、
      それならつくってみましょー。ということになったの。」

みみずく 「なるほどね。」

アリス  「他人の機材改造に便乗して楽しめるかな?っていうのがホンネです。」

みみずく 「そのために、多少の労力は提供しようというわけだね。」

アリス  「まさに、そうです。
      それに、とても簡単にできそうですし。」

みみずく 「まぁ、そうだね。確かにお気楽にできそうだ。
      それに定電流回路は突入電流(ラッシュ・カレント)が発生しないので
      少なくとも真空管のヒーターには優しいし、特に危険なディメリットは無いかな。」

アリス  「真空管のヒーターにはラッシュ・カレントが発生するんですか?」

みみずく 「真空管に限らず、ヒーター状のものには基本的に発生するよ。
      なぜかというと、ほとんどの物質は温度が低いと電気抵抗も低く、温度が高くなると電気抵抗も高くなる。
      だから通電直後、ヒーターが発熱していない状態では大きな電流が流れやすい。
      特に対策をとらない限り、定電圧回路でヒーターを駆動すると必ず突入電流が発生する。
      ちなみに、白熱灯のフィラメントが通電直後に明るく光って切れることが多いのはこの突入電流によるものだ。」

アリス  「ふーん。通電して発熱するものには共通の現象なのね。」

みみずく 「そういうこと。定電流回路は特に工夫をしなくても原理的に突入電流が発生しないのでこういった用途には向いている。
      回路はもう決まっているのかい?」

アリス  「はい。以前にminiRegの応用例で使用した定電流回路をそのまま使おうと思います。」

みみずく 「miniReg2(+)の出力電圧を可変させることで可変定電流回路として動作させているんだね。
      もちろんminiReg2のかわりにopeRegや三端子レギュレーターも使える。」

アリス  「ここに足した方がいいものはありますか?」

みみずく 「入力にCRフィルターを足せるようにした方がいいな。
      そうすると整流しただけの荒い直流を接続してもCRフィルターで平滑できるし、
      並列接続の際のクロストークも向上する。(※RをLに換えたLCフィルターも面白い。)」

アリス  「なるほど。それに確かメールにも真空管ひとつひとつ個別に定電流回路を用意した方が音が良かった、
      と書いてありました。」

みみずく 「試してみる価値はありそうだね。」

アリス  「実際にはどのような設定、定数で使えばよいでしょう?」

みみずく 「具体的にプリアンプに良く使われる真空管で計算してみよう。
      それぞれのヒーター電圧とヒーター電流の規格値はこうだね。」
      (6DJ8、ECC88) 6.3V 365mA
      (6922、E88CC) 6.3V 300mA
      (7DJ8、PCC88)   7V 300mA
      (12AX7) 12.6V 150mA もしくは 6.3V 300mA

アリス  「あとは発熱などの条件を考慮して定数を決めればいいのね。」

みみずく 「まあそうだね。条件はこんな感じだ。」
      ・R1にかかる電圧(miniReg2(+)にとっての出力電圧)は1.5V以上が望ましい。
       (miniReg2(+)はNFBモードでは2.5V以下の電圧を出力できないので注意が必要です。)
      ・R1,R2ともに発熱量は定格の半分以下が望ましい。
      ・小型放熱フィンの装備を考慮してminiReg2(+)の発熱量は3W以下が望ましい。
      ・miniReg2(+)の電圧降下は2.5V以上が望ましい。

アリス  「いろいろと制限がありますね。わかりやすいように一覧表にしてみましょう。
      ひとまずR1とR2に2W品を使うことを想定して、安全のために定格の半分、発熱量1Wまで記載してみました。」

みみずく 「おぉ、これは見やすいな。」

アリス  「スイッチング電源でお手軽に使えるように12V、15V、24Vを供給した場合の
      定数についても記載しておきました。
      エクセルシートをつけておくので自分で計算してみたい人は使ってください。
      灰色の網掛けのところにヒーター電圧、ヒーター電流、R1の値を記入すると
      自動で計算してくれます。」

みみずく 「なかなか気が利くじゃないか。アリス。」

アリス  「あたしもあとで使おうと思って♪ひとつひとつ説明できる自信もないし…
      この表の中でオススメの定数ってありますか?」

みみずく 「そうだね、ヒーター電圧が6.3Vと7Vのときは
      6DJ8、6922、7DJ8のどれもが使えるってことで、
      供給電圧はDC12Vで、R1=5.6Ω、R2=2.4Ωっていうのはどうかな?
      12AX7をヒーター電圧12.6Vで使う際には
      供給電圧24Vで、R1=15Ω、R2=43Ωあたりが使いやすいかな。
      どちらかというと、R1は低めに、R2の値は高めにしたほうがいい結果が出そうな気がする。」

アリス  「ありがとうございます。参考になります。」

みみずく 「ところで、miniReg2(+)を少し改造することで定電流性能をより向上させることができる。」

アリス  「どんな改造ですか?」

みみずく 「miniReg2(+)に供給される電源電圧が安定化されている場合は大丈夫なんだけど、そうではない場合、
      miniReg2(+)に実装されているR3に流れる数mAの電流が定電流にならない。
      対策としては、R3を定電流特性に優れる2sk302sk246などのFETに交換することで性能を向上させることができる。
      具体的な回路図はこんなカンジね。」(miniReg2のドロップ電圧が低い場合はGRよりもYタイプを奨励)

アリス  「なるほど。miniReg2(+)の内部を流れる電流まで定電流化することで、より性能を向上させるわけですね。」

みみずく 「その方が電源電圧の変動にも強くなるしね。
      実際の改造にあたっては次のようにFETのゲート(G)とソース(S)を接続してから実装するといいと思うよ。」
    ※2SK30、2SK246をminiReg2(+)に実装する場合、
     通常のFETとピン配置が逆になるので下の写真のように実装します。
     miniReg2(-)に実装する場合は反対の向きになります。
     他のFETの場合はデータシートでピン配置を確認してください写真と反対の向きになることが多いです。

 

アリス  「ふむふむ、これで定電流電源としてより磐石になるというわけですね♪」

みみずく 「ただし、2sk30が安定的に定電流特性を発揮する為にはドレイン・ソース間に4V程度の電圧が必要なんだ。
      つまり、miniReg2(+)のIN・OUT間には少なくとも5V以上のドロップ電圧が必要になる。
      そうすると、さっきアリスが作った表にも修正が必要になるわけだ。」
    ※2SK30Yと2SK246Yを奨励します。GRタイプよりもドロップ電圧が低くても性能が出ます。

アリス  「あ、そうですね。えっと…再計算してと。あらら、12Vの電源では使用不能ですね。
      はい、できました〜。」

みみずく 「さっきの表とは少し様子が変ったね。」

アリス  「miniReg2(+)に2sk30搭載時のエクセルシートはこちらに用意しました。」

みみずく 「先ほどと同様に考えると、6DJ8、6922、7DJ8のどれにも通用する定数としては、
      供給電圧はDC15Vで、R1=5.6Ω、R2=4.4Ω。
      12AX7をヒーター電圧12.6Vで使う際には
      供給電圧24Vで、R1=12Ω、R2=30Ωといったところかな。」

アリス  「簡単そうな回路なのに、いろいろと考慮することがあるんですねー。」

みみずく 「そうだね、実際の使用にあたっては他にも注意点があるよ。」

アリス  「お願いします。」

みみずく 「真空管のヒーターにはいくらかのばらつきがある。
      たくさん電流が流れる個体もあればそうではないものもある。
      いずれにしても定格電圧のときに正常に動作するように設計されている。」

アリス  「ということは、調整の目安はヒーター電流ではなくてヒーター電圧なの?」

みみずく 「そうだよ。定電流回路なのに面白いだろ?」

アリス  「では、6922を使った場合にはヒーター電圧が最終的に6.3Vになるように
      miniReg2(+)の出力電圧を調整すればいいわけですね。」

みみずく 「そうすると、miniReg2(+)は定格のヒーター電圧でヒーターに定電流を供給してくれる。
      つまり、目論見どおりというわけだ。」

アリス  「どんな回路にも使い方っていうのがあるんですね。
      真空管は初めてだし、今回もとても勉強になりました。ありがとうございます。」

みみずく 「お役に立てたら何よりだ。」

アリス  「それでは、さっそく帰ってminiReg2(+)をのせる基板のアートワークに励みたいと思います。」

みみずく 「新しい基板をおこすんだね。名前は決まってるのかい?」

アリス  「名前は…、えと…、Constant Current Circuit Board 略して『C3B』にします。」

 


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