音の良いACラインノイズフィルター

(商用交流100Vacの電源フィルター)


アリス  「ちょっと疑問なことがあるんです。」

みみずく 「あれ?今日はあんまり好奇心と熱意を感じない雰囲気だな。
      どうしたんだ、アリス?」

アリス  「疑問はあるんですが、あんまり意味の無いことなのかもと、ちょっと思ってしまいまして。」

みみずく 「ふーん。どんな無意味な疑問なんだい?」

アリス  「電源のAC100Vからノイズを減らすと音は良くなるものなんでしょうか?」

みみずく 「ん?ちょっと話が見えないな。ノイズ?どんなノイズ?」

アリス  「実はACラインフィルター(ノイズフィルター)というものを買ってみたんです。」

みみずく 「ふむふむ。」

アリス  「最初は“ラインフィルター内蔵”と書いてあるOA機器用の電源タップを
      偶然見つけて買ってみました。」

みみずく 「うん。」

アリス  「エフェクターとかアンプとかヘッドフォンアンプにつないでみて、
      あんまり納得いかなかったので他にもいくつかそろえてみました。」

みみずく 「うんうん。」

アリス  「それでも納得いかなかったのでACインレットに内蔵されているラインフィルターを買ってみました。」

みみずく 「買ってみると?」

アリス  「こういうものなのかなって。」

みみずく 「ふーん。」

アリス  「なんでも、電源から入ってくるノイズをカットできるという話じゃないですか?
      ノイズフィルターっていうくらいだし、商品のパッケージにもそう書いてありますし。
      ノイズをカットできるなんて気になるじゃないですか?」

みみずく 「まぁ、ウソじゃないんだけどね。」

アリス  「音が良くなるかもと思ったんですけど、そうでもなかったんです。
      と、いいますか、なんだか音がモコモコとかモヤモヤしてしまって、
      むしろ悪くなってしまったといいますか…」

みみずく 「なるほどね。」

アリス  「製品の選び方がたまたま間違ってたんでしょうか?
      どこかに音が良くなるACラインフィルターってあるんでしょうか?
      そもそもACラインのノイズカットなんて効果あるんでしょうか?」

みみずく 「それが今日の疑問?」

アリス  「疑問といいますか、15000円以上使ってしまいましたので何だか納得いかなくって。」

みみずく 「また随分しっかりと授業料を払ったもんだね。
      それだけ払えば十分だろう、あっはっはー。」

アリス  「もうっ、笑い事じゃないですよっ、みみずく先生。
      あたしはガッカリ感に浸っているんですから。」

みみずく 「だから、どことなく意気消沈していたのか。」

アリス  「まぁ、そんなところですよー。」

みみずく 「結論から言うと、
      音を良くするためのACラインフィルター、ノイズフィルターを作ることは出来る。」

アリス  「まぁ♪やっぱり♪」

みみずく 「一般論として、通常、良い電源フィルターを作ろうと思うとそれなりにお金がかかる。
      小さく作ろうとするとさらに高価なものになる。
      特に高性能な磁気パーツは高価なものが多い。」

アリス  「そうなんですね。」

みみずく 「電源タップのメーカーとしてはラインフィルターは最もコストダウンしたい要素のひとつだから
      どうしても品質はそこそこになる。
      逆に高い性能が要求される高品質なラインフィルターはとても高価だよ。
      もちろんそれだけの価値はある。」

アリス  「安物ばっかり買っていたのが問題だったんですね。」

みみずく 「そうかもしれないね。もちろん高ければいいというものではない。
      一番の問題はオーディオ用にチューンされていないということだよ。」

アリス  「オーディオ用にチューンって、そんなことが可能なんですか?
      性能の善し悪しがあるだけかと思ってました。
      ノイズが取れる、取れないみたいな。」

みみずく 「ノイズの除去性能が最も重要なものであることは確かだよ。
      ところで、ノイズフィルターの回路自体はとても単純なもので、
      いくつかパターンはあるがそれほど多くは無い。
      しかし、単純なだけに使うパーツのクオリティーによって影響を受けやすいところがある。」

アリス  「いいパーツを使うのが効果的ってことですか?」

みみずく 「何が“いいパーツ”なのかっていうのは状況によって変るけど、
      用途に合わせたパーツの選定は重要だよ。」

アリス  「つまりオーディオ用途に合わせたパーツ選定が重要ってこと?」

みみずく 「ちょっとオカルト的だがそういうことになる。
      問題なのは、どんなパーツからどんな音がするのかっていうことがわかっていないと
      チューニングができないっていうこと。」

アリス  「なんか、完全にオカルトですね。」

みみずく 「性能を追い込むだけじゃ音には届かないから、
      どうしたって最終的にはそうなってしまう。
      無論、だからといって性能や特性を軽視するのは論外なので勉強はしっかりするように。」

アリス  「はーい。」

みみずく 「それじゃあ、ACラインのノイズについて、かいつまんで説明しよう。」

アリス  「お願いします。」

みみずく 「まずはノイズ源の考察からだね。
      例えば、こんなものがある。」

 

 ●掃除機や電動工具、ドライヤーのモーター
  いわずと知れたノイズ源。モーターのブラシが発するアーク放電の威力は強烈。
  最近はだいぶましになってきたが、昔はテレビがみられないほどのノイズが発生することもあった。
  ACラインにもノイズがのるし、空間放射も多い。悪質度は最強レベル。ブラシレスモーターはまた別。

 ●サイリスター電力制御(トライアック電力制御)
  比較的安価で発熱損失も少ない古典的な制御方式。大電力を扱うときに良く使われた。
  最近でも安価な電気カーペットや電気毛布のコントローラーに使われる。
  電源ラインの交流電流を直接ぶつ切りにスイッチングすることで電力制御をしているのでパルス状のノイズが発生する。
  かなり悪質なノイズ源。大電力機器で充分な対策を講じないと周囲に大きな影響がでる。
  最近は電力効率がよくノイズ対策もしやすいインバーター制御に移行している。
  インバーターはスイッチング電源の一方式ともいえる(スイッチング電源にはインバーターが内蔵されている)。

 ●スイッチング電源
  現代の多くの機器に搭載される電源。スイッチングノイズは高周波になればなるほど小さなフィルターで除去が容易になる。
  無対策であれば悪影響は大きいが、ちゃんとしたフィルターを装備すれば無問題。
  整流平滑後の電流をスイッチングしているのでサイリスターと比べるとずっとノイズ発生は少ない。

 ●ダイオードによる電力制御
  1本の整流ダイオードで電源ラインを整流し半波のみを取り出すことで消費電力を半分に制限する。
  大変安価に大電力の制御が出来る。“強弱”しかない電気ストーブ、ハロゲンヒーター、オーブントースターはだいたいこれ。
  安物のダイオードを使った某国製品(最近はハロゲンヒーターが多い)がダイオード劣化にともなう発熱でよく発火したりする。
  消費電力も数100W以上と大きく、電源ラインに上下非対称な電流が流れるため電流波形が歪む。
  高周波のノイズはあまり発生しないが、インピーダンスの強烈な非対称性を発生させるということでこれも悪質。

 ●変圧トランスを使用したリニア電源を搭載する製品
  一見するとクリーンでノイズ源にならないようだがそんなことは無い。
  基本的には交流電圧波形が低いうちはほとんど電流が流れず、
  波形の頂点付近だけでインパルス状の大電流が流れるという動作を繰り返している。
  その急激な負荷変動により電源ラインの電流波形をゆがませる大きな原因になっている。
  大出力のA級パワーアンプはこの筆頭であるが、他にも多くの機器に当てはまる。
  上下対称の歪みなので悪質性は低いが、比較的低周波成分まで含むため除去はそれなりに困難。

 

みみずく 「他にはスイッチのON/OFFや蛍光灯なんかがあるけど、こんなものかな?」

アリス  「たくさんあるんですねー。ノイズ源じゃないものってあるのかしら?」

みみずく 「ACラインのノイズ源となりにくいのは無制御の電熱線とか白熱灯、交流ハロゲンランプくらいなものだね。
      それに、こういっちゃあ何だが、AC100Vライン自体が大きなノイズ源になる。」

アリス  「あ、ハムノイズですね。ブ〜ンっていうやつ。」

みみずく 「そうそう、それ。
      アンプのホット側の信号線に触ったりすると人間の身体をアンテナにしてブーンという音を拾ったりする。」

アリス  「ということはわたしの身体にもノイズが流れているんですね。」

みみずく 「ちょっと語弊はあるけれどそういうこと。」

アリス  「あ、ちょっと関係ない話なんですけど、
      あたし、実は電気毛布や電気カーペットを使うとなんか落ち着かなくてよく眠れないんです。
      サイリスター制御っていうのと関係が?」

みみずく 「関係はあるんじゃないかと思うね。
      実は以前に電磁波過敏症の人がいてね、相談を受けたことがある。
      サイリスター制御の電気毛布を改造してあげたらグッスリスヤスヤ眠れるようになった。
      私も試してみたけど確かに気持ちいいんだ、これが。」

アリス  「ふーん、あたしも試してみようっと。」

みみずく 「まぁ余談はさておき、話を続けよう。」

アリス  「はい。」

みみずく 「電源ラインには2本のラインがあって電源の交流電流が流れている。
       このように。」

みみずく 「AC電源ラインでフィルタリングの対象になるノイズには
      それぞれコモンモードノイズとノーマルモードノイズという大きく性質の異なるノイズがある。」

アリス  「はい。」

みみずく 「コモンモードノイズは2本のラインを同時に伝わってくる。」



みみずく 「ノーマルモードノイズは電源電流に重畳する形で伝わってくる。
      2本のラインを互い違いに伝播することから
      ディファレンシャルモードノイズ(差動ノイズ)とも呼ばれる。」



みみずく 「重要なことはコモンモードノイズとノーマルモードノイズでは対処方法が異なるということ。」

アリス  「段々わからなくなってきましたがどうぞ続けてください。」

みみずく 「ノーマルモードノイズはライン間にノイズ電圧が発生するわけだからコンデンサーによるバイパスが有効になる。
      アクロス・ザ・ライン・コンデンサという。」



みみずく 「コモンモードノイズは二つのラインに同方向の電力として発生するので
      バイファイラ巻きやキャンセル巻きをしたチョークコイルを使う。
      こういう用途のものをコモンモードチョークコイルという。
      同方向の電流のみにインダクタンスが発生するのでコモンモードノイズには大きな効果がある。
      AC電源ラインに使う場合には安全のために巻線間の絶縁距離を稼ぎたいからキャンセル巻の方が良く使われる。」



アリス  「へぇ〜、おもしろいですねー。」

みみずく 「それで、これらを組み合わせてラインフィルターを構成するわけだ。
      市販品には良くこんなラインフィルターが搭載されている。
      多分、アリスが持っているラインフィルターのほとんどはこの方式だろう。」

アリス  「随分シンプルな回路ですね。わたしでもすぐに作れそうです。」

みみずく 「そう、とても簡単な回路だ。すぐ作れる。
      ただ、安全には重大な要件があって、
      この回路のコンデンサーは様々な部品の中でも飛びぬけた安全性が必要とされている。
      監視者がそばについていて安全が確保できる実験用なら交流高耐圧品を使えば何とかなるけど、
      実用する場合は特定の安全規格品を使う必要がある。」

アリス  「わぉ、そんなにシビアな回路だったんですね。
      それでは、まずは部品集めからですねー。」

みみずく 「あ、話はまだ続きがあってね、実はこの回路は音が良くない。」

アリス  「なんですとー。」

みみずく 「この回路でも充分なノイズ低減は可能だよ。だからこそ製品にも採用されている。
      ただ、私の経験上なんだけどね、この回路だとアリスが言っていたモコモコした音になりやすい。
      そこで、対策としてノーマルモード用チョークコイルもあわせて使うと良い。」

アリス  「これまたシンプルな。」

みみずく 「そう、シンプルだな。
      しかし、上手にチューンすることでノイズを遮断するだけでなく、
      電流の供給先となる機器内蔵の電源回路の動作を向上させることも出来る。
      そうすると音が良くなってくる、という目論見だ。」

アリス  「へー、それはまた。
      まったくわかりませんが、スゴイですね。」

みみずく 「実はラインフィルターは入ってくるノイズだけでなく出て行くノイズにも効く。
      例えばPCに使ったとすると、他の機器類をPCの大出力電源の影響から守ることが出来たりする。
      そういうわけで機器間の不要な干渉を防ぐことにも有効なので複数の機器に使用した場合の音質改善効果も高い。
      もちろん、ちゃんとチューニングすればだが。」


みみずく 「で、オーディオ用にチューンする場合に最も重要になってくるのが各チョークに使う磁気コア材の選定。
      巻線のターン数なんかも重要。」

アリス  「あぁ、頭が痛くなってきました。きっと知恵熱がでてきたんです。
      さらにまったくわかりません。」

みみずく 「わかる気もするよ。インダクター(コイル)ってわかりにくくって敬遠されがちだからね。
      できれば避けて通りたいと思っている人は多いはずだ。何しろ私もそうだった。」

アリス  「もしよろしければ、講義はそこまでにして音楽を聴かせてください…」

みみずく 「じゃあ、いくつかチューンを用意して早速聴いてみようじゃないか。」

アリス  「あぁ、よかった♪
      あたし、お茶の用意をしてきますね♪」

みみずく 「狙い通りの音になるといいよな。」

アリス  「もちろん、いいものになったらキットを作りまーす。
      名前はAL-SDFAlice's Sugoi Dengen Filter)です!!」


 

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